内容説明
『レイテ戦記』執筆過程の昭和四十二年三月、一兵士として戦った現地を再訪し、自らの生と死との彷徨の跡を尋ねる。賠償問題が解決してもなお、反日感情が根強く残る時期、亡き戦友への追慕と鎮魂の情をこめて、詩情ゆたかに戦場の島を描く。『俘虜記』の舞台となった、ミンドロ島、レイテ島への旅。
著者等紹介
大岡昇平[オオオカショウヘイ]
明治42年(1909)東京牛込に生まれる。成城高校を経て京大文学部仏文科に入学。成城時代、東大生の小林秀雄にフランス語の個人指導を受け、中原中也、河上徹太郎らを知る。昭和7年京大卒業後、スタンダールの翻訳、文芸批評を試みる。昭和19年3月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、20年1月米軍の俘虜となり、12月復員。昭和23年『俘虜記』を「文学界」に発表。以後『武蔵野夫人』『野火』(読売文学賞)『花影』(新潮社文学賞)『将門記』『中原中也』(野間文芸賞)『歴史小説の問題』『事件』(日本推理作家協会賞)『雲の肖像』等を発表、この間、昭和47年『レイテ戦記』により毎日芸術賞を受賞した。昭和63年(1988)死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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雲をみるひと
19
大戦末期にミンドロ島で陸軍暗号手を務めていた作者の回想期を踏まえた戦後の現地訪問記。終戦から20年しか経過していないセンシティブな時期の訪問のため、現地人の心境を慮る心境や計画していた目的地に辿り着けないもどかしさなど当事者にしか表現できない内容となっている。巻末の報告記も詳細でよい。個人的には捕虜になった際の米兵とのやり取りが興味深かった。2021/03/16
Toska
6
再読。個人的に最も大きな感銘を受けた戦記文学の一つ。戦争も軍隊も大嫌いで、国策などは全く支持しておらず、なのに無理やり戦場へ駆り出され危うく死にかかった大岡昇平。その大岡が、ミンドロ島で死んだ戦友を忘れられず、感情の激発に背中を押されて鎮魂の旅を試みる。これは確かに、戦争という極限状態を経験した人でないと分からない心の動きであろう。ごくわずかな期間を共有しただけの戦友たちが、生涯「忘れ得ぬ人々」となったのだ。2021/08/12
teitowoaruku
2
「そこにいる日本人の頭を二つに割りたいそうで…」と言われたことについて、著者と同じく衝撃を受けた。戦後二十五年が過ぎても、日本人への憎しみが相当に残っていたことを感じさせる。戦争に対する加害者意識(特にアジア諸国への)が低いことについては、今一度日本人全体が考える必要があるだろう。2022/01/04