感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
(C17H26O4)
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日野啓三の都市幻想小説、かなり好み。急速に(当時)発展しつつある都市にのみ込まれてしまう不安、取り残されてしまう焦り、来るべき未来への畏れが充満しているように感じた。都市や建物が無機質に描かれると思えば、生き物のように生々しく描かれる独特の世界観。夢と現実を行ったり来たりする漂う感じと、都市の硬質さが混在している。強い印象を残したのは『ふしぎな球』。都会のど真ん中に残る古い住宅地で、幼い息子が宙の穴から球を取り出す話。都市が身辺を侵食してくる恐怖があった。また、表題作からは強烈な焦りを感じた。2018/06/01
Y
1
相当面白かった。「カラスの見える場所」では都市における孤独と、音楽として生まれる狂おしい叫びが、「砂の街」では都市の中心における静寂と、それが一瞬にして変容してしまうことの驚きが描かれていた。表題「夢を走る」は開高健「パニック」を内的に描いたようにも読めた。言葉は曖昧でいとも簡単に変化する幻想世界の堅牢な壁となり、読者をそこに閉じ込めてくれる。世界から帰還した後、読者は現実世界との違和感を楽しめるのだ。それは小川洋子や長野まゆみなどの作家群に引き継がれたのだろうか。2024/01/31
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1
古本屋で百円だったのを救出して来たきり積んでおいたけれど、全面的に大好きな世界で買って正解だった。静かに静かに、見えない所で何かが起こる不穏な気配だけを高めて行く感じ。特に「砂の街」が素晴らしい。Living Zeroに繋がるような、コラージュ的な細かいカットアウトによるリズム感が絶妙で、そこからあの終焉へと畳み掛ける語りは殆ど「こういうジャンルの音楽」と呼びたいほど。2012/07/27