内容説明
本巻は、著者の伝記小説の分野の口火を切った「田村俊子」と、つづく大作「かの子撩乱」とを収録した。田村俊子も岡本かの子も、ほぼ明治中期の生れであり、「目覚めた女」として、自分の生を、女性として芸術家として充実させ、両立させようと主張し、実行した人物である。世の因襲に囚われない激しい生き方に著者は共感し、その作品の新しさに注目し、田村俊子には自身の分身を見るような親しみを感じつつ、岡本かの子には憧れと多少の懼れを抱きつつ、自分の未来の渾沌の中へ分け入るような緊張感を以て描いている。両作品とも、以後、この人物に関してこれ以上の伝記は書かれないであろう、と多くの評家を瞠目せしめた。