感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
46
明治四〇年に完成した青山脳病院はまさにローマ宮殿を思わせる。ドイツ留学から帰り、経営に意欲を燃やす紀一の夢が現前した姿といってよい。関係者87名の中央に座す院長夫妻の傍らで、茂吉はいかにも謹直そうに見える。「木のもとに梅はめば酸し」と歌われた妻・輝子の着物姿は、幼さと勝ち気な表情が忘れられない。遡って明治三七年、一高生の茂吉と講師だった漱石が触れあう程の距離に写っている。かねてより私淑していた露伴や子規、師と仰ぐ左千夫の写真を見るにつけても、医業より文学にのめり込んでいった茂吉の複雑な心中が思いやられた。2014/12/07