出版社内容情報
かつて日本人はどんな思いを抱いて生きていたのだろう。倭建命の孤独、小野小町の夢、平維盛の入水、そして世阿弥の花とは何だったのか? 白洲正子は四十年ほど前に、歴史の谷間に語り継がれた数々の伝承を追いながら、古人の辿った道をゆっくりと歩き続けた・・・。
内容説明
小野小町の夢を思い、世阿弥の花に誘われて…古人の辿った道を、もう一度歩く楽しみ。文芸紀行の名作が豊富な図版とともに蘇る。
目次
白鳥の歌―倭建命
昔男ありけり―在原業平
夢に生きる女―小野小町
大原御幸―建礼門院
補陀落渡海―平維盛
西国巡礼の祖―花山院
旅の芸術家―世阿弥
琵琶の名手―蝉丸
花がたみ―継体天皇
うわなりうち―磐之媛皇后〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あきあかね
23
「春の夕暮、私はしばしばそこに立って、平安の古を偲んだ。夕べの靄はすべてのものを包みかくし、花ふぶきの中に、過去の人も、現在の物も、一つになってとけこむように見えた。」 小野小町、在原業平、平維盛、蝉丸、世阿弥等々ー古の人びとの辿った縁の道を探ってゆく。物語と現実の場所とのあわいが曖昧模糊となり、いつしか夢幻に包まれる。 夢の歌に優れ、ついに夢にしか生きられなかった小野小町、平家滅亡で六道を見尽くし寂光の中で生を全うした建礼門院など、風雅な筆致によって、各々の人物の心情や人間性までもが浮き彫りにされ、⇒2019/10/02
hitsuji023
6
雑誌に掲載されていたということで、読みやすい。取り上げられている人物がこれまであまり目にしたことがない人物ばかりだったのが新鮮だった。それぞれの人生の味わい、儚さが感じられる文章。読んだあとの余韻が良かった。歴史好きにオススメしたい。2022/07/29
りー
4
各章は、倭健命・業平・小町・建礼門院・平維盛・花山院・世阿弥・蝉丸・継体天皇・磐之媛皇后・惟喬親王・東福門院。白洲正子さんの本を読むと、旅をしたくなります。著者の精緻な目で歴史とそこに生きた者の想いを複雑なレイヤーとして重ねて見られるから。多分、著者のそうした特性は、能楽を深く学ばれていたことと関係があるのだと感じました。世阿弥の能は、過去と現在が重なる物語。特に、「あっ!」と納得したのは、能=蝉丸に登場する“逆髪”は古代の巫女の神降ろしの姿であり、逆髪→坂神と読み取れる、という指摘。やはり凄い方です。2018/07/07
amanon
2
先に読了した『私の百人一首』のときも思ったのだけれど、本書を読んでいると、現在の古文教育の弊害について考えてしまう。枝葉末節ともいえる文法や解釈に拘泥するのではなく、ひたすら原文に浸り、その魅力に触れるということを等閑にした古文教育にいかほどの意味があるのだろうか?と。著者はそういう七面倒くさい決まり事とはほとんど無縁なところで、ひたすら故人の生きた時代やその生い立ちや何よりその作品に憧憬を抱くというスタンスから本書を書き綴っている。現在古文教育に携わる人全てに読んでもらいたいと個人的に思う。2012/06/18
残心
1
著者の古典に対する興味にしたがって、自分の足で調べまわって書かれた随筆。 倭建命、在原業平、小野小町、平維盛、花山院、世阿弥、蝉丸などをとり上げている。 それぞれについて、具体的に深く入り込んでの内容にはレベルの高い教養を感じた。2016/04/17