内容説明
「吾輩は猫である。名前はまだ無い」この一行に、大きな謎が仕組まれていたとは―。上海の街に苦沙弥先生殺害の報せが走り、猫の「吾輩」はじめ、おなじみ寒月、東風、迷亭に三毛子、さらには英国猫のホームズやワトソン、シャム猫の伯爵など、集まった人が、猫が入り乱れ、壮大な野望と謀議が渦を巻く。卓抜な模写文体とロマンで、日本文学の運命を変えた最強のミステリー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
aoringo
46
苦沙弥先生殺害のミステリーから始まりSF的な展開に繋がっていき、また時空を超えたラブストーリーでもある。舞台は上海でお馴染みの面々が登場するが、なにか犯罪に荷担しているようで...。なにより猫の描写がかわいくて猫の集会での議論や活躍が楽しかった。絶妙な合いの手を入れるワトソンに笑った。文体は漱石に倣っているのだが、とても上手くて本家のものと記憶が重なる。単なるコピーではなく独自の社会思想や戦争論などが語られているのも興味深かった。作家の手腕が感じられる作品だった。2018/01/03
ハイカラ
36
個性的猫たちによる推理合戦が愉快だったが、最終的にSFチックな展開を見せ、真相は宇宙のかなたにぶっ飛んでしまった。そこがまた面白い。文体も原典に似せられており、吾輩君の語りも冴えわたっている。600ページあるけど読んだ甲斐があった。2016/04/23
わんこのしっぽ
20
読み始めては中断し、また読んでは中断しを繰り返すこと数年(笑)終盤思いもよらない展開になって漸くスピードが上がったけど、それまでの行があまりにも長すぎる。とにかく 読み終わった自分を誉めて上げよう!2018/06/24
kk
18
漱石そのままの文体と『猫』の登場人物を縦横に駆使して、無理やり紡ぎ出す密室ミステリー。終盤かけて話はどんどん膨らんで、よくわからないうちに、いつもながらの奥泉ワールドが展開されちゃいます。かなり読者を選ぶような物語だとは思いますが、kkに言わせてもらえば、やはり、奥泉先生は天才です。2020/09/18
白いワンコ
13
京極夏彦や伊坂幸太郎は作品内へ綿密に張り巡らせた伏線を鮮やかに回収して見せる。村上春樹は無理に回収せず、割りきれない思いをわざと読者へ残す。そこで奥泉光である。伏線の枝葉が、回収する手間暇を考えないかのように絶え間なく伸びていく。抱腹絶倒な枝葉は文章のグルーヴとなり、全くをもって飽きさせない。何を言っているか分からないと思うが、そこが奥泉光である。一度読んでみて。意味まではともかく、言いたいことが何となく分かるだろうから2019/10/24