内容説明
古い長持を開けて楽しむ着物の肌ざわりにも似た独得の味わいが、荷風散人の名品にはある。散人のそんな小説・随筆・日記の時空間に、心おもむくまま遊んでみたい。『日和下駄』のひそみにならって…。時代に抗しつつ時代を物語る、荷風ならではの言葉の行跡を存分にたどり、『おかめ笹』執筆から偏奇館焼亡にいたる生活と創作、その魅力の真相を照らし出す。かくも豊穣な批評の愉悦。
目次
『おかめ笹』の地誌
『つゆのあとさき』の驟雨
橋の彼方の世界
『ひかげの花』の女
日記と小説の間
記録者と創作者
私家版の周辺
巴里今昔
二つの改元
物語話法(ナラトロジイ)と『女中のはなし』〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえ
9
荷風の鋭い街への観察眼を、裏から透視するかのような本。中盤以降から、途端に面白くなる。「昭和二二年になって、中野重治は『五勺の酒』に、新憲法公布の式典にかり集められた民衆の「寸毫の感激をも催すことな」き無表情振りを描いているが、荷風先生が、いち早く戦時中に、同じ表情を観察しているのは面白い。徴用も空襲も、いわんや新憲法も何等「感激」の対象ではない。…重大事は、満員電車に首尾よく乗れるかどうかだという民衆の無感動は、そのまま実は今日に継続している」ここでいう民衆はオルテガのいう「大衆人」と表裏一体であろう。2021/03/26
iwasabi47
3
読友レビューから。よかった。江藤淳はじめてかな?またあとで。2021/04/18
分魚
0
読了。旧仮名遣いと原文に阻まれ半分までがつらかったが、半分以降は慣れたのかあっという間に読めましたが、濃かった(笑) 荷風論なだけあってもっと作品読んでから読めばよかったかな?とも思えるけど単品でも楽しめました。何故か平衡して読んでいる「圏外へ」が同じようなニオイがする・・・カタリテが出てくるから?まぁ、次にいきましょ。2012/02/02