内容説明
角膜移植で光を取り戻したヴァレリーは、手術後、不思議な男性の幻を見るようになる。いつも悲しそうな顔をして、ひっそりとたたずむアジア系の男性。この角膜が、かつて見つめていた人物なのだろうか―?しかも焼き付くほどに。彼を突き止め、どうしても会いに行かなければ。ブリュッセルの女と東京の男が運命によって呼び合わされたとき、新たな人生が始まり、明日への希望と祈りに包まれる。幸せの予感に満ちあふれた、極上の愛の物語。
著者等紹介
辻仁成[ツジヒトナリ]
1959年、東京生まれ。89年、処女小説『ピアニシモ』で第13回すばる文学賞を受賞し、小説家デビュー。97年『海峡の光』で第116回芥川賞受賞、99年『白仏』で仏フェミナ賞・外国小説賞を日本人として初めて受賞
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感想・レビュー
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美登利
25
不思議な魅力に溢れてる物語。ファンタジーなのかよくわからないし、かなり好き嫌いの分かれる内容だとは思います。だけど途中で止めることもなく読了。登場人物がとても少なく内面描写がすごく多くてそれを補うように美しく妖しく儚さに満ちた、大人の物語だと思います。辻さんは様々なシチュエーションのお話を書かれる方ですね。2013/10/13
Masiro*
19
☆ あらゆる言葉の表現について美しい小説だった。光の都ブリュッセルと東京が繋がるトキ、どんな絵が映し出されるのだろうと思った。光を感じること、光が見えること、このせかいを感じられること、このせかいが見えること、この小説を読んだあとでは、光やせかいの見え方がちがってみえるかも、そんな不思議な小説でした。ステンドグラスみたいに儚い美しさがありました☆素敵だった。2016/03/31
さくらんぼ(桜さんと呼んでね)
6
角膜移植をしたベルギー女性。移植後からアジア系男性の幻を見るようになる。角膜提供者の残像ではないかと考えた女性は、角膜提供者のことを調べ出してアジア系男性に会いに日本へ向かう。すごく入り込んで読んでしまった。この女性の心の声のような散文が私に突き刺さった。桜やオリガミが効果的に使われ、まるで映像を見ているようだった。この物語の最後、私もハッピーエンドを望みます。2013/11/18
eri
2
独特の世界観で若干の狂気を感じてしまった。相手の意思がどうであろうと、恋人が死に逝く様子に対してシャッターを押し続けるナツキには微塵の共感もない。タイトルから想像できるような、もっと幸福感のある結末が読みたかったな。辻さんの文章は好きなので何冊か読んでいるし、先を読みたくなる書き方の面白さや、言葉の表現の仕方も好き。辻作品で明るい本ってあるのかな?そんな作品を読んでみたい。2020/08/29
まにまに
2
角膜移植を受けた女性ヴァレリーのお話。毎日みていた幻想は実在していて、提供者の角膜を通してみていたものだった。ベアトリスも、ナツキも、2人の関係性と2人の抱える深い悲しみと、読んでてすごく切なくなりました。写真ってそれだけで芸術作品、としか捉えていなかったけど、かの有名なハゲタカと少女の例えにもあったように、被写体と写真家、周囲の状況すらもつたえてしまう畏れ。幸福な結末、だったらいいなぁ。2020/08/16