内容説明
皎々たる満月の光が、琵琶湖の面に照り渡る―七年前、会社社長の架山はこの湖で娘みはるを失った。遺体はあがらないまま、架山にとってみはるは永遠に「生と死」のはざまにいる。娘とともに死んだ青年の父親に誘われ、琵琶湖の古寺を訪れた架山は、十一面観音に出会い、その不思議な安らぎに魅了されるのだった。そんな日々のなか、ヒマラヤでの月見に誘われ、架山はそこでみはると二人だけの対話をもとうと決心する―。
著者等紹介
井上靖[イノウエヤスシ]
1907年、北海道旭川に生まれる。京都大学哲学科卒業。大阪毎日新聞社学芸部に勤務の傍ら、「闘牛」「猟銃」を発表。50年の「闘牛」で第22回芥川賞を受賞。51年に同社を退社後、精力的な執筆活動を開始、多彩で詩情豊かな名作を次々と生み出す。76年文化勲章受章。代表作に『天平の甍』(芸術選奨文部大臣賞)『孔子』(野間文芸賞)など多数。91年に逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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NAO
55
琵琶湖で娘みはるを亡くした架山が、一緒にボートに乗っていて亡くなった青年の父親大三浦に誘われ湖北の十一面観音を参拝するまで。不慮の事故で子を亡くした親の悲しみは計り知れないが、架山と亡くなったみはるとの対話にはちょっと共感できなかった。大三浦への恨みも分かるが、常に上から目線なのも気になった。大三浦と十一面観音を参拝したことで架山の心境がどう変化していくのか、下巻へ。2022/10/01
ひさしぶり
23
折しも知床の遭難事故と重ねて読むことになりました。七年前に琵琶湖での事故により17歳で亡くなった娘みはるを想う架山が、ともに亡くなった青年の父親に誘われ十一面観音に出会うところまで。〈宇宙のどこかの涯しなく遠いところにある遊星群の星の一つで起こった事件に思いを馳せる。湖も小さく、みはるの事件も小さく見えた。登場人物の一人であったが観客の一人と自分を置くことができた。〉この辺りがミソなのかな? そして土地の人が大切に大切にし守ってきた庶民的なお姿のお像に私も惹かれています。びわ湖百八霊場巡回中2022/04/26
しーふぉ
21
夏休みに琵琶湖畔に行きたくて読んだ本ですが、コロナで断念。いつかまた行きたい。美的感覚が井上靖らしい。2022/09/04
あかつや
4
東京で会社を経営する架山は17歳の娘を琵琶湖のボート事故で失う。結局遺体は上がらず複雑な心境のままだが、時が過ぎるにつれ死んだ娘との安定した関係が生まれてくる。事故発生からの遺体捜索の日々の描写は、子を亡くした親の辛さがよく伝わってきて悲しかった。この世に我が子を亡くす以上の苦しいことなどないんだろうな。架山はかなり理性的に事件を乗り越えていくけど、辛さという部分では変わることはない。娘と一緒に亡くなった青年の父親にイライラさせられながらも、よく耐えたもんだよ。もっと怒りをぶちまけたってよさそうなものだ2021/09/03
茶瓶
3
井上靖の作品を読みたくなった事と、長浜が舞台である事、観音様が出てくる事をきっかけに読み始めました。架山は大三浦に対して苛立ちを持ちますが、私は架山の娘の捉え方に苛立ちます。この父娘関係が娘にどんな思いをさせているか、そこを都合良く解釈しているように見えてしまいます。下巻はどんな展開をするのか、読み進めて行きたいと思います。十一面観音についての描写がとても豊かで、今後も楽しみです。2016/03/11
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