内容説明
爛熟の極に達したウィーン世紀末文化。耽美的なデカダンス。そこに潜む国家と個人の崩壊感覚。再生への焦燥感。時代の不安をワルツの狂おしいまでの刹那的陶酔に紛らわせながら、安定と延命を願う「神話」が生まれる。没落し消滅しゆく帝国。失われた世界を惜しむ者に抗いがたくつきまとう誘惑。―現実の世界に背を向け、夢・幻想・諦観の交錯する詩的空間で人生の奥義を探究するオーストリア文学の系譜を、中世以来のハプスブルク的伝統に溯り、「双頭の鷲」の帝国独特の歴史体験から見通したオーストリア文学の世界。
目次
第1章 ハプスブルク神話の成立
第2章 ビーダーマイヤーの時代(オーストリアを訪れたドイツの作家たち;フェルディナント・ライムント;ヨハン・ネストロイ ほか)
第3章 フランツ・グリルパルツァー、秩序と時代の流れ
第4章 ハプスブルク的郷土文学(アーダルベルト・シュティフター;マリー・フォン・エーブナー・エッシェンバッハ;ペーター・ローゼッガー ほか)
第5章 オーストリアの終焉(フェルディナント・フォン・ザール、没落する者の威厳アルトゥール・シュニッツラー;フーゴー・フォン・ホーフマンスタール;カール・クラウス、黙示録と非神話化 ほか)
第6章 昨日の世界―今日の神話(ヨーゼフ・ロート;フランツ・ヴェルフェルとシュテファン・ツヴァイク;ハプスブルク的ヨーロッパ主義、チョコアとシュライフォーグル;ローベルト・ムージルの宗教的社会学 ほか)