出版社内容情報
イタロ・カルヴィーノ、U・エーコが本書を「イタリア文学の至宝」と絶賛。好評増刷出来。
内容説明
アルゴン、水素、亜鉛、鉄、カリウム…。宇宙の、物質の源に思いを託し、アウシュヴィッツ体験を持つひとりの化学者が自らの人生の断片を綴った自伝的短編集。各篇のタイトルに元素名がつけられ、全21篇がまさに文学の周期表を形づくる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
扉のこちら側
16
初読。ヨーロッパではアンネの日記と並んでファシズムを告発する記録文学とした高い評価を得ている「アウシュビッツは終わらない」の著者による、21の短編集。短編すべてに元素の名をつけ、元素にまつわる思い出や自分との関わりを書く手法。文学者であり化学者でもあった著者ならではの世界観。2012/12/05
OZAC
12
世界大戦を生きたユダヤ系イタリア人の自叙伝。ドイツ軍に捕まった著者が当時を述懐している一文が特に心に残った。「彼(ドイツ将校)がもう数十年来、どこかの山奥の戦時墓地に葬られ、私がここで生きていて、実質的には無傷でこの話を書いているのは、奇妙で、馬鹿げていて、悪意を込めた滑稽さがあると言わざるをえない」。人の生き死にの不可思議さと残酷さを思わずにはいられない。2017/07/08
Ted
8
'92年9月刊。アウシュヴィッツ関連の著書とは少し趣きが異なる、不思議な雰囲気のある短編集。収容所に入る前と解放後の軌跡を基に「一人の化学者」という目線で描いた自伝的小説。作品の出来としては玉石混交で、「収容所もの」の面白さに比べると、小説の方はあまり巧いとはいえない。(レーヴィの他の作品も訳している竹山博英氏の翻訳レベルは高いので翻訳の問題に非ず)ただ、戦後、取引先の企業と手紙のやり取りをしているうちに、その担当者が実は収容所時代のドイツ人の上司だったという話から展開する『ヴァナジウム』は秀作だった。2012/08/07
圓子
6
この本が絶版なんて、どうかしてる。味気ない元素記号にも、人を拒むような亀甲にも、温度も手触りも匂いもあったのか。化学もいきものだったのか。2013/12/11
ヴィオラ
5
素晴らしい!今回のイタリア(読書)旅行では、もしかしたらレーヴィさんが一番の収穫かもしれないなぁ。最初のアルゴンに始まって、各章には元素の名前がついていて、それぞれの元素にまつわるエピソードが語られる。味わいの異なる各エピソードが、どれも面白い。最終章の主人公は、なんと元素そのもの!という楽しさなんだけど、アウシュヴィッツ等の作者の経験を踏まえると、それが全然違う意味を持ってくる。2012/04/24