出版社内容情報
大学中退、外務省ノンキャリという経歴から文化功労者にまで駆け上った東南アジア研究のカリスマの「元気が出る」自伝です。肩書にも学歴にもこだわらず、大好きなタイ研究の道をひたすら突き進む著者の生きかたは、爽快そのもの。人生の荒波にどう立ち向かおうかと迷っているフレッシュマン、かれらに生きる指針を与えたいと思っている親御さん、リストラの嵐にたちすくむ若手サラリーマン、みんなこの本を読めば生きる勇気が湧いてきます。マスコミの話題になること必至。ご期待ください。
第1章 中退また中退
受験生のころ
言語学へのあこがれ
小林英夫先生との出会い
外務省暮らし
第2章 ノンキャリ、タイへ
タイ留学時代
チュラーの思い出
稲作民族文化総合調査団
梅棹さんとの出会い
出家志願
得度式の思い出
大使館勤め
「ナンスーチェーク」蒐集のこと
第3章 再スタート
二度目の本省勤務
四面楚歌の東南アジア研究センター
地域研究ということ
学位取得のこと
ロンドンへの研究留学
第4章 旅、終わらず
上智大学へ移る
雲南旅行の経験から
学長業と研究と
学問は面白い
四発のプロペラ機は、西にむかって、ゆっくりと機首を下げていく。ふわふわとした綿のように真っ白な雲塊を突き抜けると、左手の窓いっぱいにひろがる茶褐色の大地が眼にとびこんできた。低平な水田に、物差しで引いたような平行線が、何本も何本も南北に走っているのが見える。これが、以前、本で読んだことのあるランシット運河だとしたら、バンコクまではあと数十キロのはず。いよいよ到着だ。そう思うと、胸がときめく。
タイ語の勉強を始めたときから、いつの日か、本物のタイ語にふれたいと、タイヘの留学を夢みていた。しかし、戦争に負けて一〇年たらずの一九五三年当時の日本では外貨の制限がきびしく、特別の仕事でもないかぎり外貨の割り当てがもらえなかったので、かりにお金があったとしても、今日のような海外旅行などは夢のまた夢。フルブライトやガリオア資金で米国へ留学した先輩の話などをただうらやましく聞くのが落ちだった。
「君が本当にタイへ行きたいのなら、近道があるからやってみないか。外務省だよ。外交官試験はむずかしいが、外務書記ならやさしいぞ」こう教えてくれた人がいた。文学部しか頭になかった自分には、外務省などという役所は月世界のような存在だっった。今で言えば、さしずめロケットにのる宇宙飛行士の心境に近い。
機内に入る。前方のエコノミークラスはがらんとして、相客は三人しかいなかったように思う。席につくと、大柄のオランダ人スチュアーデスが、次から次へと食べ物を運んできた。ところが胸がいっぱいで、なにも口に入れたくない。ついさっき、おめでたい旅立ちだからと、母が用意してくれたお頭つきの鯛でさえ、箸をつけるのがやっとだったのだ。二〇〇グラムのステーキなんてはいるわけがないだろ。ようやくデザートのアイスクリームが出てきて、ほっとする。食事を終えて窓から外を見ると。月がきれいだ。餞別にもらったばかりのF1.4レンズつきのニコンのシャッターを切る。
夜があけた。インドシナ半島上空に達したらしい。地上に見える巨大な流れはメコンだろう。かなり大きな支流が直角にメコン本流に流れ込んでいるところをみると、もう少しで東北タイの主邑ウボンのはずだ。それまで真西にむかっていたKLM機が高度を下げ始めた。外を見ると、広い水田の真ん中に、なにか黒いつぶのようなものがが見える。窓に鼻をすりつけて眼をこらす。どうやら水牛らしい。鋤を引いているのだろうか。後ろに人がいる。水牛
内容説明
中退、ノンキャリから文化功労者へ。まわり道でもいいじゃないか。
目次
第1章 中退また中退(受験生のころ;言語学へのあこがれ ほか)
第2章 ノンキャリ、タイへ(タイ留学時代;チュラーの思い出 ほか)
第3章 再スタート(二度目の本省勤務;四面楚歌の東南アジア研究センター ほか)
第4章 旅、終わらず(上智大学へ移る;雲南旅行の経験から ほか)
著者等紹介
石井米雄[イシイヨネオ]
1929年、東京に生まれる。東京外国語大学中退後、外務省に入省。京都大学東南アジア研究センター所長・教授、上智大学アジア文化研究所所長・教授等を歴任。1995年、紫綬褒章受賞。2000年、文化功労者顕彰。現在、神田外語大学学長、京都大学名誉教授、独立行政法人国立公文書館アジア歴史資料センター長、東洋文庫研究顧問、日本学術振興会学術顧問。専門・東南アジア史
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