内容説明
泰淳は、日本を美の国として愛した。中国を美の国として愛した。ギリシアを美の国として愛した。美の国は、日本の、中国の、西洋の文明の一つの根源であるから。だが泰淳は、美の国日本、美の国中国、美の国ギリシアを、いずれもそれ一つとして愛したのではなかった。泰淳は、日本、中国、ギリシア、三つ美の国によって形成され、変形され、さらに形成される混沌たる原始をこそ愛した。そこに日本、中国、ギリシア、それは日本と東洋と西洋といいかえてもいいのだが、それらいずれにも属さず、そのいずれにも属する遙かなる美の国を創造したのだ。