内容説明
「新しい歴史教科書をつくる会」とは何だったのか。「つくる会」につどう自称“普通の市民”たちのメンタリティを実証的に分析し、現代日本のナショナリズムの行方を問う。
目次
第1章 「左」を忌避するポピュリズム―現代ナショナリズムの構造とゆらぎ(「下からのナショナリズム」運動;「価値観の揺らぎ」からの脱出 ほか)
第2章 『新しい公民教科書』を読む―その戦後批判を点検する(個人主義だけがエゴイズムか;「防衛義務」の安直な強調 ほか)
第3章 “普通”の市民たちによる「つくる会」のエスノグラフィー―新しい歴史教科書をつくる会神奈川県支部有志団体「史の会」をモデルに(「史の会」のエスノグラフィー;「史の会」参加者の意識とタイプ分け ほか)
第4章 不安なウヨクたちの「市民運動」(「市民運動」との類似性;参加者たちの思想傾向 ほか)
著者等紹介
小熊英二[オグマエイジ]
1962年生まれ。1987年東京大学農学部卒業。出版社勤務を経て、1998年東京大学教養学部総合文化研究科国際社会科学専攻大学院博士課程修了。現在、慶応義塾大学総合政策学部教員
上野陽子[ウエノヨウコ]
1978年生まれ。2003年慶応義塾大学総合政策学部卒業。現在、金融機関勤務
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感想・レビュー
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Toska
14
2003年刊。「新しい歴史教科書をつくる会」横浜支部の実地調査(上野陽子)を基礎として、小熊英二が同運動のバックボーンを分析していくユニークな構成。卒論が本になるってのも凄いよな。「健全な」「ごく普通の」市民という自意識を持つ人々が、「サヨク」への反感だけを軸にゆるくつながる集団。ただし彼らの持つ「サヨク」イメージは至って薄っぺらなもので、なぜこれが標的に選ばれたのかは正直よく分からなかった。共産主義は死んでも反共主義だけは生き残ったかのような。2023/09/14
もてぃ
6
2000年代初頭の「つくる会」およびその下部組織「史の会」への参与観察をメインに、草の根保守運動の実態を研究した一冊。私自身はかなりリベラルよりの思想を持っているが、だからこそ普段あまり関わらない保守派の考えは新鮮で面白かった。上野氏の論文自体はあまり読みやすいとは言えないが、小熊氏による前後の補足的な考察は明快。17年前にこれだけ草の根保守の性質を看破できる人がいたことは驚嘆に値する。一方でこれだけ分かっていてもヘイトの過激化や右傾化が(世界的に見ても)と進んでしまったのはなぜなのだろうか。2021/05/09
ジュン
5
「となりのウヨク」を罵らずに考えた珍しい本だと思う。特に、一定の共感をもって「史の会(つくる会の支部)」を観察した上野の視点と、それを前後で補った小熊の構成がいい。 2016/01/21
のぼりけんたろう
5
10年前の本だが、本書の〈たとえ「つくる会」が消滅しても、これを生んだ土壌(要するに、個の不安)は生き残り、「在日」「外国人労働者」などが新たな標的となるであろう〉旨の仮説と予見は、コリアタウンのヘイトスピーチを経験した今、とても重い。2014/02/05
y-k-057
4
もう十五年近く前の社会現象の検証ではあるが、現代にも通ずる示唆的な一冊。『日本型j排外主義』で、小熊氏の分析に対して言及している箇所があったので、併読するとなお良いと思った。2015/09/12