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カナダの継承語教育―多文化・多言語主義をめざして

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  • サイズ A5判/ページ数 193p/高さ 22cm
  • 商品コード 9784750320984
  • NDC分類 372.51
  • Cコード C0037

出版社内容情報

多文化教育先進国カナダにおいて、移民が持ち込んだ文化や言葉をどのように教育の中で扱ってきたかを、カナダの言語教育研究の第一人者カミンズとダネシが1990年に論じた名著の待望の日本語訳。巻末に訳者による「カナダの継承語教育年表」つき。

謝辞
第1章●イントロダクション 言語戦争
第2章●多文化のベールを取ると…… カナダ人のアイデンティティの形成
第3章●アンビバレンスの容認 多文化主義から多言語主義へ
第4章●人的資源としての言語 継承語強化の根拠と研究
第5章●声の否定 カナダの学校教育におけるろう児の言語の抑圧
第6章●21世紀の多文化主義と多言語主義 道を切り拓くか、遠くの星を眺めるだけか
付録資料●継承語プログラムの教育的効果
参考文献
カナダの継承語教育その後――本書の解説にかえて(中島和子)
カナダ継承語教育年表
索引

カナダの継承語教育その後――本書の解説にかえて
 原書は133ページ、13×21cmの小冊子である。タイトルは『継承語――カナダの言語資源の開発と否定』である。庶民のための啓蒙書という体裁のもので、カナダの有識者(継承語教育擁護派)が手にとることはあっても、「カナダから一歩も出なかった……」とカミンズ教授自身が述懐しているほど、世に広まらなかったものである。カミンズの著作には、世界的レベルの学術書が数多くあるなかで、なぜ本書を選んで日本語に訳したのかと聞かれれば、答えは一つである。少数言語児童生徒の母語教育を多文化・多言語主義との関連でとらえ、母語教育の理論的根拠とその重要性をこれほど実証的にしかも実態に即して書かれたものは、私の知る限り他にないからである。国内の外国人児童生徒教育にかかわるものの一人として、ぜひ母語・継承語の教育的意義とその実現の難しさについて日本の識者や学校関係者にも知ってもらいたいというのが正直な理由である。カミンズ教授の著作には少数言語児童生徒の言語発達の問題をバイリンガル教育の立場から扱ったものが多いが、「言語資源」という概念とともに継承語教育の重要性を力強く打ち出しているものは他に承語教育とカナダの言語資源の育成の重要性を位置づけている。
 以上で明らかなように、本書はカナダ学や地域研究としてカナダを扱う専門家はもとより、広く多文化主義、多言語主義、多言語社会と言語教育、国際理解教育、反人種差別教育、少数グループの言語権や言語学習権、少数言語児童の教育・言語・アイデンティティ問題などに興味のある読者に貴重な情報と視点を与えてくれる。もちろん、母語・継承語教育、バイリンガル教育に興味のある識者には必読の書と言える。ただし本書は、言語教育を専門とする読者はすぐ気づかれると思うが、いったいどのような学習者に、どのようなカリキュラムを立てて、どのような教材を使って、どのような方法で継承語を教え、どのように評価するかという、いわゆる教授法一般で扱われる具体的な内容に関してはまったくと言っていいほど触れられていない。本書の特色は、あくまでもカナダ型多文化・多言語主義の接点にある、両者の調整役としての継承語教育の意義づけにある。
 多言語主義は、多文化主義がどれほど徹底して実践されるか、あるいはそれが単に便宜的な政策にすぎないかを測る一種のバロメーターになると言われる。多文化主義を「一つの社会に極的に評価されるべきであろう。
 「カナダ型多文化・多言語モデル」の中核をなすのは、「言語資源」という概念である。移住者が持ち込んだ多様な言語を前向きに評価し、それを、国を豊かにする言語資源と位置づけたものである。つまり彼らの言語を維持・伸長させることは、彼ら(マイノリティ側)に役に立つばかりではなく、われわれ(マジョリティ側)にとって役に立つ貴重な資源づくりになるという視点である。よって、国民の税金を使って公教育のなかで継承語教育を実施する価値があるという意義づけである。このようなマジョリティ側の、マイノリティの言語文化に対する価値づけや価値の吊り上げがあってこそ、カナダで多言語主義の実現に近づくことが可能になったと言える。このカナダの「言語資源」という概念が、米国の継承語教育の興隆の引き金になったことはすでに述べたが、日本国内の帰国子女教育においても、また外国人児童生徒教育においても、日本の豊かな言語資源の開発を目指して、この観点から継承語教育への取り組みが期待されるところである。
 21世紀の国際社会は、地球上のさまざまな地域や国々の間で相互依存的関係が増大し、地球の一体化、グローバル化が進んでいる早い時期に「継承語研究者会議」などを開いて、言語教育の専門家だけでなく、社会言語学、言語心理学、文化人類学など多様な背景の学者を継承語教育研究に巻き込んだことが、カナダの継承語教育研究を豊かにしている。もちろん質、量ともに膨大なカナダの公用語のバイリンガル教育研究とは比較にならないほど少ないが、少ないだけに貴重なものである。継承語教育の中核となる二つの大事な概念、「言語資源」と「二言語相互依存性」(83ページ)は、いずれもカミンズ教授が提唱したものである。カナダの多文化主義を初めて政治の舞台で提唱したトルードー首相と並んで、カミンズ教授の貢献なしには「カナダ型多文化・多言語モデル」はここまで来ることはできなかったであろう。この意味でカミンズ教授の貢献は偉大である。(「カナダの継承語教育その後――本書の解説にかえて」より抜粋)

目次

第1章 イントロダクション―言語戦争
第2章 多文化のベールを取ると…―カナダ人のアイデンティティの形成
第3章 アンビバレンスの容認―多文化主義から多言語主義へ
第4章 人的資源としての言語―継承語強化の根拠と研究
第5章 声の否定―カナダの学校教育におけるろう児の言語の抑圧
第6章 21世紀の多文化主義と多言語主義―道を切り拓くか、遠くの星を眺めるだけか
付録資料 継承語プロブラムの教育的効果

著者等紹介

カミンズ,ジム[カミンズ,ジム][Cummins,Jim]
アイルランド出身。アルバータ大学で教育心理学でPh.D.を取得、現在、トロント大学オンタリオ教育大学院(OISE)教授。専門はバイリンガリズム、バイリンガル教育

ダネシ,マルセル[ダネシ,マルセル][Danesi,Marcel]
イタリア出身。トロント大学イタリア語学科教授を経て、現在、同大学ビクトリア・カレッジ教授。専門は応用言語学と意味論

中島和子[ナカジマカズコ]
国際基督教大学語学科卒業、同大学院(M.A.)、トロント大学大学院(Phil.M.)。トロント大学東アジア研究科教授を経て、現在、名古屋外国語大学外国語学部教授、同大学日本語教育センター長。カナダ日本語教育振興会名誉会長。専門はバイリンガル教育、日本語教育

高垣俊之[タカガキトシユキ]
上智大学文学部卒業、国際基督教大学大学院(M.A.)、ペンシルベニア州立インディアナ大学大学院(Ph.D)。トロント大学客員研究員(2001‐2002年)を経て、尾道大学芸術文化学部助教授。専門は応用言語学と英語教育
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