出版社内容情報
人間に与えられた自由の代償として悪を捉え,聖書・神話世界からカント,ルソー,カフカ,ヒトラーらを多様に考察。人間の悪の経験と悪への思考の展開を描く。
内容説明
人間に与えられた自由の代償として悪を捉え、聖書・神話世界からプラトン、カント、ルソー、ヴェーバー、フロイト、カフカ、ニーチェ、ヒトラーらを多様に考察して、人間の悪の経験と悪についての思考の展開を壮大に描く。
目次
起源と破局。ヘシオドスの神々の地獄。聖書の堕罪と自由の誕生。否認の系図。カインとアベル。悪魔の経歴。楽園からの追放と文明への逃避。ノア。神も悪と共に生きることを学ぶ。
人間は自己自身を範とすることができるか。古代の自信。伝統の力。ソクラテスは新しい道を模索する。生をうまく乗り切るプラトンの哲学。魂の秩序と都市の秩序。この世界から脱落することは許されるか。
マックス・ヴェーバーの理論、苦悩が超越を求めるという宗教的な世界拒否。しかしアウグスティヌスは異常なまでに神を求める。超越を裏切るものとしての悪。一次元的人間。科学の倒錯に対するアインシュタインの警告。聖霊に抗する罪。
シェリングにおける超越への裏切りの歴史。神の中の悪と宇宙のドラマ。意識の進化。無の共犯者としての人間。無政府状態と秩序を乱すテロルの間にある国家。なぜ世界は啓示を必要とするか。精神に対して信義を守る。〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さえきかずひこ
10
"悪"を人間の自由の可能性として論じる一冊。カントの永遠平和の思想について素描する第8章、そのカントとサドを対置する第11章、カフカの純粋さをバタイユの"侵犯行為"につなげて論じる第13章がとりわけ興味深く、楽しんで読めた。結部でザフランスキーは、カント哲学を持ち出し、あの有名な『実践理性批判』の定言命法に則って生きるよう促しているが、読者としては彼が茶を濁している感が拭えない。さらに人間の自由についての思索を深めた論考を期待したいが、エッセイとして見れば本書はそれなりに示唆に富んでいると言えるだろう。2018/05/20