感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
筑紫の國造
9
「731部隊」、通称「石井部隊」としてしられる関東軍防疫給水部の「人体実験」を扱った本。この手の本はいわゆる「告発本」(『悪魔の飽食 』など)の形式になりがちだが、本書はその点極めて冷静に、「戦争と科学者」について記述している。著者は最終的に細菌を使った人体実験をしてしまった科学者たちに「怒りより悲しみ」を覚えたとしており、現代の視点から弾劾するのを避けている。そして自分も当時の人間であれば人体実験に参加していたかも、と。3000人、と言われる人体実験の人数には納得出来ないが、読みやすく、良心的な本。2018/06/08
藤井宏
2
おぞましいの一言。1970-1980年ころに大学病院の動物実験施設のラットを感染源とするハンタウイルス感染症が流行したようだが、ある大学からの報告論文を読むと、本書で記載のある戦前の論文が引用されていた。その後の医学に役にたったのかもしれないが、しれっと業績として残りつづけるのはどうなのか。日本の敗戦が決定的になってからのこと、細菌兵器使用での戦局の巻き返しをねらってドブネズミの捕獲に奔走する姿はもの哀しい。まじめな人がまじめに恐ろしいことをする世界。2022/09/12
卯月
2
再読。二次大戦中に満州で細菌兵器の人体実験を行った七三一部隊(通称石井部隊)を、科学史、科学倫理の観点から冷静に分析。写真や図版は殆どないが、戦時中に発表された論文の内容だけでも人体実験は立証可。石井部隊は少数のマッドサイエンティストが突然暴走したのではなく、一次大戦後の世界各国による細菌戦研究の流れの中で設立された正規の隊。だが人体実験が始まった経緯は謎。戦後に調査した米軍が〈こうした情報は人体実験に対するためらいがあり、われわれの研究室で得ることはできない〉と記すが、ためらいの有無は何に起因するのか。2014/09/06