内容説明
「智に働けば角が立つ」から「しばらくでも塵界を離れた心持になれる」詩的天地に遊ぼうと、旅に出た青年画家は才気あふれる女性・那美さんと出会う…。清浄な“非人情の世界”を描いた『草枕』、欲と金の社会を批判しつつ理想主義に苦悩する青年を描いて、のちの大作品群を予感させる『二百十日』と『野分』―漱石初期の代表的中篇を収める。若い読者の理解を助けるため読みやすい活字で詳細な語注を付した。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
70
小説というには散文的な感じがしました。そのせいもあってか、文章から美しい風景画が見えるようです。漱石の代表的な中編『草枕』『二百十日』『野分』の3編がおさめられているので、贅沢な1冊だと思います。2020/05/20
tokko
18
解説にあるように「草枕」を「俳句的小説」だと思えば、この印象派的とも観念的とも言える文章もうなずける。自然の色彩感や出来事のぼんやりとした「感じ」がなんとなく伝わってきて、「それでいい」と言われればそんなものかと思えてくる。「野分」の方が「読む」対象としてはつかみどころがあるし、道也先生の演説には今の世にも考えさせられる一面があって面白い。漱石の描く女性って、たまにドキッとさせられますね。2017/01/29
mm
17
「草枕」「二百十日」「野分」を収録。「草枕」では漱石先生の風刺的表現に何回も笑って、批評的コメントに何回もフムと言った。小説としてではなく、文化論として面白い。「野分」の中の明治に生きる文学人としての心意気が、白井道也という人物の語りとして展開されているが、この部分は熱い。この熱さを小説としてもう少ししっかりした台に乗せたのが虞美人草なんかなぁ。。。二百十日はあっさりしているけど、会話のリズムがやはり漱石という感じ。いずれの作品の中でも、植物や空模様や衣類の描写がクッキリしていて実に巧みだと思う。2022/07/23
あくび虫
6
居住まいを正すような、貫禄のある一冊。1、2巻とは趣が異なり、ただ面白いでは済まない強く迫る力があります。特に『野分』が素晴らしい。というか野分の印象が強すぎて、前二作の記憶がおぼろ。のめり込んでしまう凄みがありました。孤独の描写は、息をひそめるくらいに鬼気迫っています。自己に汲々としていた主人公の選択は、清々しくて胸を打ちます。そして道也先生の愛嬌といったら!素晴らしく魅力的。――満足の溜息のでる一冊です。2022/08/22
hitsuji023
6
「草枕」の冒頭の文章は何度読んでも良い。しかし、特別物語に筋があるわけではないのですごく読みづらい、眠くなった。それはそれとして戦争(日露戦争)に行くよりは主人公のように自然でも見ながら温泉に浸かりながら日を送る方がいい。 「野分」は金持ちと貧乏人の対比についての考察に今でも通じるところがあって面白く読めた。今でもどこかにこんな若者がいそうだ。2016/06/19