内容説明
親しい二者関係を基盤とする「甘え」の心性が失われ、無責任な「甘やかし」と「甘ったれ」が蔓延しています。変質しつつある日本社会の根底に横たわる危機を分析した書下し論考“「甘え」今昔”を加えた新増補版。
目次
「甘え」今昔
第1章 「甘え」の着想
第2章 「甘え」の世界
第3章 「甘え」の論理
第4章 「甘え」の病理
第5章 「甘え」と現代社会
付 「甘え」再考
著者等紹介
土居健郎[ドイタケオ]
1920年東京に生まれる。1942年東京大学医学部卒業。1950年‐52年アメリカのメニンガー精神医学校留学。1955年‐56年アメリカのサンフランシスコ精神分析協会留学。1961年‐63年アメリカ国立精神衛生研究所に招聘。1957年‐71年聖路加国際病院精神科医長。1971年‐80年東京大学医学部教授。1980年‐82年国際基督教大学教授。1983年‐85年国立精神衛生研究所所長。現在、聖路加国際病院顧問。医学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬参仟縁
44
甘えるという言葉は日本語独特のもの(7頁)。社会人類学者中根千枝氏は日本的社会構造の特徴をタテ関係の重視として規定されたが、甘えの重視として規定できる。偏愛的な感受性が日本社会でタテ関係を重視させる原因となっている(23頁)。日本人は自分が属する人の信頼を裏切ることに最も強く罪悪感を感じる。罪悪感は人間関係の函数(50頁)。同じことを繰り返して怨恨になる場合もあるが、裏切りタイプの人はいると思う。日本人は甘えを理想化し、甘えの支配する世界を以て真に人間的な世界を考えた。制度化したものは天皇制(64頁)。2016/02/01
せ~や
41
初めに読んだ時はほとんど分からず途中で断念。二度目に読んだ時は、最後のほうでわからなくなり、これまた途中で断念。非常に面白い概念なんだけど、難しい。また読んでみたいです。
rigmarole
33
印象度A-。秀逸な日本人論。名著です。鋭い洞察・分析の連続で、いちいち納得させられます。よく売れた理由がわかります。ただ正直言うと、日本語の語彙を何から何まで「甘え」の概念で分析しているあたり、多分に我田引水的に感じられるところもありました。後半は四国遍路をしながら少しずつ読み進めましたが、これはこれで面白い読み方だったと思っています。その日の朝に読んだ数頁の内容について、歩きながら日本人の気質について考える。それが様々な気付きを誘発し、またその日の人との出会いについて、一つの態度を提示してくれるのです。2018/07/03
夜間飛行
32
西洋には「甘え」、つまり受身的な愛情を表す言葉がないと知って驚いた。当たり前に思っていた「甘え」という概念を、西洋人は意識(言語化)していなかったのである。しかし、「甘え」は根源的な感情であり、それを意識していることは日本人の長所であると知って、ほっとした。著者によれば、西洋人の自由の観念は神との関係に支えられてきたらしい。そのような関係が崩壊して以来、西洋における人間の自由への信仰は形骸化しているという。この指摘の正否はわからないが、「自我」と「感情」、そして「自由」について考えるヒントにしていきたい。2012/11/25
よこしま
29
東電や原子力ムラらの責任の所存がないシステム、更には無関心から依存症に関して、何か掴めるのではないか?と思い借りてみました。著者が精神科医であることから、フロイトなどが出てくるあたり、完全に理解するには何度も読み直す必要はありかな。◆167頁「自分がない」にて核心的な部分を発見。日本人独特の集団と個人の箇所です。著者自身が病院を辞め責任の所在を示すことで執行部の自立を促すはずが、アイデンティティのない若い医師らは理解できず。少しなりに収穫あり。2015/02/08