内容説明
「フーテンの寅さん」で有名な葛飾の柴又は、奈良時代は下総国葛飾郡大嶋郷俣里に属した。正倉院に残っている養老五年(七二一)の戸籍によれば、この地は孔王部忍羽(あなほべのおしは)とその一族が住んでいた。都から遠く離れた東国の地で忍羽を始めとする庶民の大地に根付いた暮らしと社会はいかなるものだったのか。探求心に後押しされた著者は時間を越えて忍羽の元を訪れる。そこには自然の中で実直に生きる人びとがいた。
目次
第1章 孔王部忍羽の古里(古代葛飾の世界;大嶋郷戸籍の世界;大嶋郷逍遙)
第2章 子供の頃の記憶―遊びと労働(忍羽生まれる―お産の周辺;遊ぶ少年忍羽;村から国へ)
第3章 忍羽、生きていく(揺れる青春を走る;忍羽、結婚の祝い;日々の暮らし ほか)
終章 忍羽、信仰世界に入る
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
印度 洋一郎
3
奈良時代の葛飾柴又(当時は下総国葛飾郷嶋俣)の戸籍記録に基づき、著者自身がその村を訪ねるという思考実験(シミュレーション)によって、当時の農民の生活を調べてみようという異色の歴史本。著者は、細分化され過ぎている現在の歴史学への警鐘として、この手法を「観念体験」と呼んでいる。詳細な記録が残っている、忍羽(おしは)と呼ばれる村長(のような役職)に就いていた初老の農民と対話し、家の構造や食べ物、仕事、家族といった暮らしぶりを聞いていく。中でも古代の子供達の生活に言及しているのは珍しい。不思議な読後感を残す一冊だ2013/10/27
風見草
1
著者がタイムスリップして、現存の奈良時代の戸籍帳に名前の載る忍羽のもとを訪れ、その時代を見聞する、という珍しいスタイルとをった歴史の本です。政治史とは異なり、考古資料から当時の地方のくらしを描き出すというもので、専門書でない一般向けとしては珍しい一冊ではないかと思います。