出版社内容情報
ゾラ[ソラ]
著・文・その他
内容説明
名作『居酒屋』の女主人公の娘としてパリの労働者街に生れたナナ。生れながらの美貌に、成長するにしたがって豊満な肉体を加えた彼女は、全裸に近い姿で突然ヴァリエテ座の舞台に登場した。パリ社交界はこの淫蕩な“ヴィナス”の出現に圧倒される。高級娼婦でもあるナナは、近づく名士たちから巨額の金を巻きあげ、次々とその全生活を破滅させてゆく。自然主義作家ゾラの最大傑作。
著者等紹介
ゾラ[ゾラ][Zola,Emile]
1840‐1902。フランスの小説家。パリ生れ。事務員・ジャーナリストを経て短編小説の執筆にとりかかり、出世作『テレーズ・ラカン』(1867)ののち、第二帝政下の一家族の歴史を描く連作を発表。その中に『居酒屋』(’77)『ナナ』(’80)『ジェルミナール』(’85)『大地』(’87)などがある。’98年ドレフュス事件に際し禁固刑判決を受け、一時英国に亡命した。不慮のガス中毒でパリで死去
川口篤[カワグチアツシ]
1902‐1975。栃木市生れ。東京帝大仏文科卒。フランスの近代劇を専攻し、東京大学、学習院大学教授を歴任
古賀照一[コガテルイチ]
1919‐2006。詩人・仏文学者・評論家、宗左近のこと。『炎える母』で歴程賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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(C17H26O4)
101
女の美貌と豊満な肉体に男たちはこれほどまでに弱いのか。ナナが気まぐれに見せる本心からの情の厚さにほだされてしまうか。ファム・ファタル。ナナが男たちの全てを食い尽くす様は恐ろしい。「ナナは数ヶ月のあいだ次々に彼らを貪り食った」「彼女の欲望は熾烈となり、彼女は一口で男を丸裸にした」「ナナは彼を怒鳴りつけ、…できるだけ早く縁を切りたいと思って、二口分ずつ呑み込んだ」おお怖い。見る影もなくなった臨終のナナに女たちが集うラストが印象深い。そこにはナナに対する哀悼と、まさに時代が動こうとする時にも逞しい女たちの姿が。2020/01/03
優希
98
破滅と堕落の物語で読み応えがありました。生まれながらの美貌と淫蕩な魅力で次々と名だたる名士たちから巨額の富を巻き上げていく娼婦・ナナの姿はまさに悪女ですね。ナナの手にかかれば生活すら破滅させられるのです。ナナは身一つで全てを吸い寄せてしまう存在なのかもしれません。そして豪奢な世界を作ったかと思えば破壊させる宿命を持った女性なのでしょう。女性の美しさと俗悪さを兼ね備えたナナは男性にとって魅力的だったのも分かります。最期の最期で崩壊する順当なファム・タタールでした。2015/05/02
のっち♬
78
舞台女優から高級娼婦になったナナと彼女の魅力にとりつかれた男たちの破滅を描く。蠱惑的な舞台や、熱狂の競馬など群衆の興奮が余すことなく伝わってくる。数々の愚鈍な男性陣よりも、磊落さと情の脆さを併せ持つナナがあちこちで見せる様々な一面こそが物語に彩りを添える。「世の中間違ってるわ。いろんなことを要求するのは男なのに、女の方を責めるなんて」庶民から貴族へ、女から男への捨て身の復讐劇は、第二帝政という生みの親も道連れにする。かくして崩壊と死をばらまくナナの事業は達成され、怠惰と放蕩の果ての大きな破滅の予感を残す。2019/03/02
NAO
63
冒頭のヴァリエテ座の興奮と熱狂が、以後作品の基調となっている。ナナが男たちを興奮させずに済まないのは、彼女にそういった気質があるから。彼女の周囲に集まった男たちは、ナナの美貌と色気だけでなく、彼女の気まぐれ、興奮、躁状態の浮かれた雰囲気に吞みこまれ、酔わされ、我を忘れていく。だが、ナナは、掃き溜めのごみの中から生じた妖しい大輪の花。自らは美しく輝きながら、足もとにひれ伏す男たちを腐らせ、破滅させずにはおかない。一族の遺伝が最も劣悪な形で現れたナナ。最下層階級を描くためだったとはいえ、何という最後だろう。2016/10/30
やいっち
59
素晴らしく面白い小説だった。19世紀パリの美と醜を描き切っている。あのプルーストには決して描けない猥雑な世界。男と女、女と女のサバト的世界が面白い。筆力の凄みに感服。2015/11/18