内容説明
ハイソサエティの退廃的な生活。それをニヒルに眺めながらも、そんな世界にあこがれている作家志望の男娼。この青年こそ著者自身の分身である。また実在人物の内輪話も数多く描かれていたので、社交界の人々を激怒させた。自ら最高傑作と称しながらも、ついに未完に終わったため、残りの原稿がどこかに存在するのでは、という噂も。著者を苦しませ破滅へと追い込んだ問題の遺作。
著者等紹介
カポーティ,トルーマン[カポーティ,トルーマン][Capote,Truman]
1924‐1984。ルイジアナ州ニューオーリンズ生れ。21歳の時「ミリアム」でO・ヘンリ賞を受賞(同賞は計3回受賞)。’48年『遠い声 遠い部屋』を刊行、早熟の天才―恐るべき子供、と注目を浴びた。晩年はアルコールと薬物中毒に苦しみ、ハリウッドの友人宅で急死した
川本三郎[カワモトサブロウ]
1944年生れ。評論家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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lily
108
カポーティの的はツルゲーネフやフローベルか。カポーティもネッドの告白録『パリ日記』に劣らないくらい率直さと狂気とエッジの効いた残酷さに充ちている。自分の才能に従って忠実に生きたとも言える。幻想としての真実がここにある。2021/01/22
藤月はな(灯れ松明の火)
84
カポーティがセレヴ界から「出て行け!」と言われた問題作。読むと実名セレヴのスキャンダルや裏事情、セックスに絡めた下品な物言いなど、「煌びやかなセレヴ」の虚像をぶち壊すような事がすっぱ抜かれているのだから当然である。しかし、作者自身ともいえる「ハーシー的板チョコ中毒のために誰でも身体を開いた」P・B・ジョーンズが語る読者や批評家による辛辣な作品評や汚れ、冷え切ってしまった自身への懊悩は余りにも痛々しい。関係者が去った今では、この作品は『泳ぐひと』のようなアメリカン・ニューシネマ的作品ともなったのが皮肉である2017/03/27
ヴェネツィア
61
カポーティは1作ごとに、実験的な試みを課していた。その典型的なのがノンフィクションに徹しようとした『冷血』であり、その圧倒的な成功は作家の頭から離れなかったようだ。今回もセミドキュメント風の手法をとっているのだが、内容的には文壇(サルトルやサリンジャーも登場)やアメリカ社交界(こちらにはジャクリーン・ケネディ姉妹も)のスキャンダルの暴露といったものになっている。主人公のジョーンズは、もちろん戯画化されたカポーティだが、彼はあくまで社交界の人ではなく、それを熱く羨望しつつも冷ややかに眺める人だったのだろう。2013/02/22
キジネコ
50
「冷血」で大きな成功を手にした作家が、未完で遺した物語は、ゴシップ小説の仮装を纏い迷宮のガーゴイルの如く私の前に立ちはだかります。人の房中の嗜好や癖、欲望の昏迷を実名で赤裸に語る作家の意は果たして何だったのか?題名の「叶えられた祈り」の謎は?人間は善か?悪か?と辛辣に皮肉に矢継ぎに問いかけ、そもそも正邪とは?如何なる概念なりや!と難問を突きつけます。「秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず」と世阿弥は云うております。カポーテイは作中暴露し乍らに「誰だと思ってるんだ、私は作家なんだぞ」と嗤うのですが、さて…2020/12/07
優希
49
退廃的な生活への憧れがテーマなのでしょうか。著者の分身である男娼を登場させ、実在人物の内輪話を描いている問題作と言えますね。自ら最高傑作と述べていることから、未完の遺作ながらも、残りの原稿もあるのかもしれません。破滅に追い込む衝撃作だと思いました。2023/05/13