出版社内容情報
ドイツのある観光地に滞在する将軍家の家庭教師をしながら、ルーレットの魅力にとりつかれ身を滅ぼしてゆく青年を通して、ロシア人に特有な病的性格を浮彫りにする。ドストエフスキーは、本書に描かれたのとほぼ同一の体験をしており、己れ自身の体験に裏打ちされた叙述は、人間の深層心理を鋭く照射し、ドストエフスキーの全著作の中でも特異な位置を占める作品である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
121
作者には物語の絵図がすでに頭にあったのか、いきなり見知らぬ登場人物達に囲まれるような始まり。一度でも賭博場に足を踏み入れたら、我を忘れ、興奮に取り憑かれ、全てを失うまでやめられなくなる者がいる。賭博場は彼らの魂を喰い尽くす。彼らはそれで地獄を見ても、ほんの僅かの金を手にすると再び吸い寄せられるように舞い戻るのだ。それはかつてのドストエフスキーの姿でもある。お金が必要でした契約のためにどうしても書かなくてはいけなかった長編。それを口述筆記によって急いで仕上げられた作品である。筆記者はその後、彼の妻となった2015/04/23
のっち♬
83
「ゼロだよ。とにかくゼロに賭けるんだ」家庭教師先の将軍家に連れられて温泉地へやって来た主人公がルーレットにのめり込んで身を滅ぼしていく。序盤は人間関係を説明した淡々とした筆致だが、舞台が賭博場へ移ると、金の利害関係や男女問題も絡んで勢いとテンションが一気に上がる。起爆源は裕福なお祖母様の参戦で、コミカルな描写が愛憎入り乱れたストーリーに彩りを添えている。泥沼の恋愛すら脇へ追いやる賭博狂の昂揚、饒舌な登場人物の掛け合いなども著者の経験が重なるためか実に臨場感豊か。破滅への誘いもまた理性で対処し切れないのだ。2018/07/27
こばまり
70
恥ずかしながら『カラマーゾフ』に続いて二作目のドストエフスキーです。一癖も二癖もありそうな面々がさっと配され、あれよあれよとドラマが始まる小気味よさ。なんといっても白眉はお祖母様だ。私はこの人物を殆ど愛してしまった。“人生は一つの壮大なコントなのだ” こんな一言が心に浮かびました。2015/07/30
みっぴー
49
タイトル通り、ギャンブルに狂っていくロシア人を描いた作品です。率直に言って、怖いな…と思いました。座ってるだけで持金が二倍、三倍に増えていくなら、止められなくなって当然ですね。でも負けるより、金銭感覚が麻痺してしまうことの方が怖いです。赤か黒に玉が入る度に大切な物が剥がれ落ちていくような気がします。小心者の私にはドラクエのカジノで十分です。2016/04/19
touch.0324
49
賭博に溺れて身を滅ぼす青年の物語。もはや病的なまでに神経質といえるドストエフスキーの観察眼で抉り出す、登場人物たちの深層心理描写に舌を巻き、作中に幾度か登場する賭博のシーン(ドスト本人の経験に基づく)にはページをめくるのがもどかしいほど興奮した。人間の普遍的な心理(特に暗の部分)と予測不能なドラマ性、ドスト氏の小説には僕が小説に望むすべてが詰まっている。これが150年前の作品というから驚愕である。なお本作は書簡形式で登場人物も少なめ。ドスト氏に苦手意識をもっている方にもぜひ手にとってもらいたい。2014/10/07