感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てれまこし
3
本能や衝動の賛美、耽美主義、悲劇的天才への憧憬。自然主義作家の多くが元はロマン主義詩人であることは興味深いが、神に相当する正統が存在しなかった日本では、反抗の対象も曖昧。社会の因習道徳の破壊なんて呼べば聞こえはよいが、結局草臥れたかかあとの喧嘩じゃないか。ドン・キホーテ式の誠実さが見えんこともないが、才能のなさを自虐ネタで補おうというケチな芸人根性も感じる。現実なら何でも真実だ、書く価値はあるというなら、文士の私生活も正直に書けばそのまま小説になる。しかし、リアリズムの「現実」ってその程度の意味なのか。2019/05/05
あかつや
3
中村光夫の本で紹介されているのを見てからずっと読みたかった。上巻には「発展」「毒薬を飲む女」の2作収録。主人公がとことん下衆野郎なのが面白い。短気で傲慢、この時代の父親らしく家族に高圧的に接し、嫁に聞くに堪えない暴言を吐き散らす。時には我が子の死を願い、偉そうな事を語るがほんとはただのドスケベオヤジで、若い女をちょっとつまむつもりで手を出して、どっぷりハマって嫉妬に煩悶、強がってはみても小心で、コソコソ周囲を窺いながら生きている。おまけに痔持ちの性病持ちだ!こいつがどう転落していくのかが楽しみで仕方ない。2018/10/07
なめこ
0
「発展」二十から二十二に当たる部分がこの版だと「毒薬を飲む女」に入ってしまっている。成立過程についてはきちんと確認をしなければならないのだが、前者では三人称多元であった視界が後者では三人称一元に移行しているのが面白い。中心人物の田村義雄はひたすらクソ男なのだが、彼や彼をめぐる女たちのいきいきとした罵詈雑言の応酬がついくせになってしまう。2016/05/30
tajidanslemetro
0
清々しいクズさ2020/09/26