内容説明
天正の少年使節団や支倉常長より早く、当時の大国ポルトガルの都リスボアを訪れた日本人がいた。種子島の鍛冶の娘で、伝来した鉄砲の製法と引きかえに、人身御供同様に嫁がされたのだった。彼女の名ははな、ポルトガル人にはアンナと呼ばれた。―歴史の現場に立ってみようとふと島を訪れた男の目に、初恋の淡い思い出に重なって、歴史に呑みこまれた悲劇の女たちの姿が現われる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
48
阿刀田さんの長編小説で歴史ものに分類されるものです。種子島などの歴史から始まってその後事実とうたかたの話が入り組んでいるものです。阿刀田さんのものとしてはそれまでとは毛色が少し変わっている感じがします。私は比較的このようなものも好みです。2015/06/25
MIKETOM
4
阿刀田得意の歴史物パターン。歴史上の出来事を題材にとって書く場合、普通に書けば知識・教養のエッセイなのだが、阿刀田はこれに小説風のテイストを加味することによって一編の作品に仕上げている。あくまで現代の目から歴史を偲ぶ構成。リスボアとはリスボンのこと。日本人初の西洋旅行者は天正遣欧使節団と正式な資料には出ているが実はそれよりも前に渡欧した女がいたという内容。種子島の鉄砲伝来や支倉常長にも触れている。まあ、その周辺の歴史話が八割方なのだが。ただまあ、加味されたテイストが弱くてイマイチ昇華し切れてないのが残念。2017/11/21
takaC
4
1995年10月読了。1999/01/01
ゆき
3
さらりと読了。淡い初恋を絡めつつ紀行文のように展開され種子島の鉄砲伝来から天正遣欧使節団までを流し、ラストになって歴史の影に埋もれたであろう架空の女性が登場する。女性がリスボアを想うのも夢ならば、男性が女性を想うのも夢のようなものなのだろう。2014/12/30
だあす
3
主人公の想像を煽った「鷲鼻の男」は何を象徴するのだろう。淡々と史実を辿る筆致は、ラストの「悲劇の想像」を浮かび上がらせるとともに、歴史というある意味選択的に構成されたものの「裏」を匂わせる。悪魔に例えられた「鷲鼻の男」は、人に歴史の影にある悲劇をほのめかし、その想像の虜にする「裏」からの使者として描かれたのではないだろうか。竜宮城を見たと言い張る老女とはなの符合が印象的でした。2012/06/09