内容説明
学問好きの娘は家門の恥という風潮の根強かった明治初期、遠くけわしい医学の道を志す一人の女性がいた―日本最初の女医、荻野吟子。夫からうつされた業病を異性に診察される屈辱に耐えかねた彼女は、同じ苦しみにあえぐ女性を救うべく、さまざまの偏見と障害を乗りこえて医師の資格を得、社会運動にも参画した。血と汗にまみれ、必死に生きるその波瀾の生涯を克明に追う長編。
著者等紹介
渡辺淳一[ワタナベジュンイチ]
1933(昭和8)年、北海道砂川市生れ。札幌医科大学卒後、同大学整形外科講師となる。’65年「死化粧」で新潮同人雑誌賞を受賞。’69年札幌医科大学講師を辞して上京、作家専業となる。’70年「光と影」で直木賞を受賞。’80年『遠き落日』『長崎ロシア遊女館』で吉川英治文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おしゃべりメガネ
189
圧倒されました。とにかく圧巻でした。日本最初の女医「荻野吟子」の物語。人はこんなに苦労に苦労を重ねても、果たしてブレるコトなく、ひたすら信念を貫き通せるのかと、ただただ敬服いたします。本作を読むと自分のやりたいコト、あるべき姿を信じて疑うコトのない主人公の姿にとにかく惹きつけられました。昔、女性がとにかく蔑視されていた時代にこんなにも幾多の苦難を乗り越えてきた主人公のコトを思うと、今の自分がおかれている環境はなんて甘く、幸せなんだろうと。波乱万丈な人生は多数ありますが、彼女の波乱万丈は桁違いの領域でした。2020/10/18
Shinji
105
このような生き方を明治の時代に女性がしたという事にただただ驚愕しました。男尊女卑がスタンダードな世の中で、病気をうつされたのは元より清廉潔白ではなかった事に対する夫への見切り、そして診察の羞恥から前例のない女医を目指すという「荻野吟子」の物語が史実を元にしてある事に重ねて驚きでした。 とてつもない勉学と苦労をかさねて医師資格を得た吟子が男を愛し、その結果北海道開拓失敗で時間を浪費し医療の進歩についていけてなかった事に気づいた時の喪失感は読み手のこちらにも痛いほど伝わりました。心に刻み置きたい作品です。2016/11/19
あつひめ
74
数年前、インマヌエルの教会へ行ったことがある。何もない…こんな所に…と思った。その時、私は荻野吟子さんについてよく知らなかったので教会でもピンとくることは何も無かった。今回、吟子さんについて知りたくてこの本を手にした。埼玉出身だったとは。一言いろんな苦労を乗り越えた努力家だと言ってしまえば容易いかもしれないが、並大抵な努力だけでは叶わぬことが多かったと思う。出逢いは必然とでも言おうか、ピンチがチャンスになるように縁は巡る。女性の味方として生きることが心の支えだったのか。女医として女として満足できたろうか。2017/01/12
美雀(みすず)
37
日本で第一号の女医、荻野吟子の評伝です。17歳で結婚、夫から性病をうつされ、男性医師に患部を診察された屈辱を晴らすように自ら医師になる。一昨年の大河の「八重の桜」と重なるような描写や、北海道開拓史とキリスト教徒の事も書いてありました。再読して良かった。2015/01/07
陽子
30
時は明治初頭。日本初の女医、荻野吟子の波瀾万丈の生涯はドラマ性があり、ぐいぐいと引き込まれた。この時代の女性蔑視、偏見と差別の中、計り知れない困難と戦いながら、女医になるための道を切り拓いていった吟子。彼女の情熱と行動力の源は、最初の結婚で夫からうつされた淋病の治療の際に体験した屈辱だった。女性の性の切なさを思った。苦労の末に産婦人科医として独り立ちするものの、思いがけない再婚による第二幕の苦難の人生。北海道の開拓にも関わり、今住むこの地が先人の壮絶な努力の上にあることを再確認した。現存した一女性の物語。2021/07/18