感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
76
生と死の壮絶なせめぎあいの物語に圧倒されました。結核病棟の四季の中で描かれる病に侵された人々の悲観だけでなく、生きるために奉仕する看護師たちの姿が美しく心に刺さります。その人間関係は死を見つめる者と生を見つめる者との相反しながらも結びつく関係のほかなりません。不安や諦め、後悔の念の渦巻く中、看護婦たちが抱く希望が気持ちの変化につながっていく様子は一筋の光のように感じます。病と死への闘いを通じて描かれる想いが見事でした。2018/04/09
KEI
40
武蔵野にある結核病院の患者、家族、周辺の医療関係者などを通して「死」との凄まじい闘いが描かれていた。結核が死病から治る病となる狭間、同じ病を得ながらも外へ出ることが出来る者、主のように居続けざるを得ない者、先行きの不安から自死を選ぶ若者。長い闘病を支える家族の困窮。著者自ら若き弟を結核に奪われている故か、生死の境にいる人々の姿は息が詰まった。患者の復縁とは裏腹に離婚を決意した婦長が感じた【肌の淋しい冷え】や、四季を通して患者の受け止める描写が見事だった。第1章から登場した省吾の転帰が哀しい。お薦め本。 2017/06/09
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
28
結核病院の様々な患者や職員についての群像小説。家に帰りたがる老人や安楽死させてくれと頼む家族、一晩で悪化して亡くなる人、一年あまりの入院でロシア語を覚えきって退院していくエリートの患者。現在のガンと同じく薬で助かる人もいればどんなに努力しても倒れてしまう人もいる。自分の入院した時を思い出したりした。長い人もいて家で孤独に病と闘うより病院に来た方がなんだかホッとする、というひともいた。もう完治は難しいと言われて泣きながら退院していく人もいたし、家族が誰もいなくて本人は半分認知症の重い病の人もいた。2020/08/05
James Hayashi
20
初読み作家。幸田露伴の娘。(1990年没)「台所のおと」を読みたいと思ったがなかったのでこちらを。内容は結核病棟の患者、医師と看護婦の人間模様。当時は不治の病で不安、諦め、後悔などマイナス要因ばかりかと思ったが、看護する人たちにより心情の変化が読み取れる。先日読み切れなかった「魔の山」(トーマス・マン)の短縮版といったところか?2016/02/04
Ex libris 毒餃子
10
ノンフィクションに感じる描写力。不治の病とされた日本人の死因第一位である結核と闘う病人と医療職の群像劇を読むと数年後にはコロナ禍の闘いについても良質な小説が生まれるのかなぁ、と思う。2021/10/23