内容説明
なぜ、その小説を書く気になったのか。そのとき何を食べていたか。どこで書き、どのくらいの時間がかかったか…。評論は一切せず、作品と資料と踏査見聞とから、88年におよぶ生涯の詳細を調べ尽し、「事実」のみを積み重ねる。直哉を師と仰ぎ親炙した末弟子が、文字で描きあげた亡き先生の肖像画。上巻27章は、出生地・石巻の不思議から、青丹よし奈良の田舎住まいの賑わいまで。野間文芸賞、毎日出版文化賞受賞。
目次
明治十六年
石巻の不思議
生母銀
父の一面
志賀家の言葉
処女作まで
祖父素描
ヰタ・セクスアリス
白樺雑話
尾道好日
勘解由小路考
松江〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐久間なす
45
志賀直哉という作家については、有名な列車事故についてしか知らなかったので、とても興味深く読みました。 すぐに癇癪を起こしたり、賭事や美食が好きだったり、何度も引っ越したりと、小説の神様と言われていても、人間らしいところはしっかりあるのだなと思いました。 意外だったのは、列車事故のエピソードについてがあっさりとしか書かれていなかったこと。これは志賀直哉本人が書いた自伝ではないからかもしれませんが、もう少し詳しくあのエピソードについてしりたかったので、ちょっと残念でした。2014/01/22
カブトムシ
21
『里見弴随筆集』の「春の水ぬるむが如くに」を読んだ。その文章では、なぜ志賀直哉と7~8年の絶交情態が続いたのか?書かれておらず、和解の喜びが中心だった。そこで、阿川弘之のこの本で調べてみた。大正5年(1916年)に中央公論に発表された里見弴の新作『善心悪心』を、東京から我孫子へ帰る列車のなかで志賀は読んだ。一見して志賀直哉と分かる主人公の友人「佐々」が、吉原の引手茶屋で無骨な遊び方をする情景や山手線の電車にはねられて重症を負う場面などが描かれていた。最後まで読んだ志賀は、掲載誌を投げ捨て、絶交を決意した。
さっと
10
おもしろかった。大学時代に近代文学の代表作として『暗夜行路』も読んでおかねばと手にして苦手意識を持って以来、十余年の空白を経て、ミステリーアンソロジーに収められた「范の犯罪」をきっかけに短編群に魅せられて、ついには評伝を読むにいたる。沼、沼、沼。直哉自身の日記・書簡や創作余談、同時代人の証言、先達の評論に加え、末弟子ならではの肉声も交えた考証が厚みを持たせている。身辺雑記の作風だから背景を追っていくと推理小説のよな楽しみもある。上巻で作家デビューから父子和解までの初期~円熟期を終えてしまったが果たして。2022/06/25
カブトムシ
8
この本は、門下生であった阿川弘之さんが、志賀直哉の人生を後世の若い人に、伝えるべく詳細に渡って、記録した志賀直哉研究の決定版です。2019/06/01
kiiseegen
5
末弟子の著者先生が詳細に纏めた志賀直哉評伝。もっと早く読めば良かった。積本を悔やむ・・・。上巻では奈良在住、暗夜行路完成前まで。志賀直哉作品もよみつつ下巻へ。2022/07/26