内容説明
人間はなぜ生れてきたか、仕事とは、金銭とは、快楽とは、愛とは、死とは…長い生涯を通じ、人間への信頼を少しも失うことなく誠実に歩んだ筆者が深遠な命題に正面から取り組んだ『人生論』、自ら抱いた理想を空想のままに終らせず、社会のさまざまな不合理を正す「新しき村」実現へ向けて決意を語る『対話』など、理想主義の精髄とも言える15編を収める随筆・評論集。
目次
人生論
新しき村に就ての対話
自分達に力がないと云うことを恥じよう
祈り
人類の意志に就て
生命の意志
愛について
東洋と西洋の美術
真理先生の遺書
鰻と鮭
小さい寂しさ
根と実
画と文学
花と人間の美しさ
沈黙の世界
著者等紹介
武者小路実篤[ムシャノコウジサネアツ]
1885‐1976。東京・麹町生れ。子爵家の末子。1910(明治43)年、志賀直哉らと「白樺」を創刊、「文壇の天窓」を開け放ったと称された。’18(大正7)年、宮崎県で「新しき村」のユートピア運動を実践、『幸福者』『友情』『人間万歳』等を著す。昭和初期には『井原西鶴』はじめ伝記を多作、欧米歴遊を機に美術論を執筆、自らも画を描きはじめる。戦後、一時公職追放となるが、『真理先生』で復帰後は、悠々たる脱俗の境地を貫いた。’51(昭和26)年、文化勲章受章
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感想・レビュー
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takaichiro
110
武者理想論の集大成「人生論」。好き嫌いは別として理想論は必要だ。社会の実情を反映しないまやかしだったとしても、本来どこに進むべきかを思う意識を覚醒し、そこに向かう羅針盤がそこにある。心強い。本書では青臭い論説がずっと続く。ホントにそうかと批判的に読むこともできるし、「武者さんはそう考えたのね、ナルホド」と呑み込んで、自分の理想論を打ち立ててもいいだろう。生きること、愛、美、性欲や恋愛、お金を稼ぐこと、そして勉強や芸術まで、人間活動のそれぞれに光を当て、理想を説く。背筋がピンとなり、とても清々しい気分だ。2020/02/08
優希
91
理想主義の真髄が語られていると思いました。いかに生き、いかに思いを現実投影する決意を持つか。その考えはあまりに高尚で何だか置いてけぼりをくらったような気分になります。かなり難しく物事を考えるだけの生涯だったことが伺えました。2017/02/25
冬見
25
綺麗事だとも理想論だとも空想的だとも思うけれど、彼の言葉を追ううちに信じたくなる。自分のなかにあるものを。世界の美しさを。この人の文学は私に、もしかしたら生きていけるかもしれないと思わせてくれる。ずっと好きな作家で、どういうところが好きなのだろうとずっと考えてきた。今回、また新たにこういうところなんじゃないかしらと思ったことがあったので書き残しておく。誰かを馬鹿にするような視線がないところ。そして、そういう視線を誘導するような書き方をしないところ。押し付けを感じさせないところ。どこまでも誠実であるところ。2019/02/04
wistful
22
人類は今でも進歩途中で、ちゃんと社会の仕組みを変えればこの先病的な社会はきっと良くなるはず、個人のためではなく人類の幸福のために行動せよというようなことが書かれている希望に溢れた理想論が多かった。▶︎人間の目的は健康にあるのではなく、地上でなすべきことを完全になしてゆくにある▶︎不治の病気の人や、不具になった人はその不幸をいつまでも嘆くよりも、勇ましく諦めて、許された範囲で自分の成すべきことをすべき。超人的な力をあらわし、普通の人では出来ないことができるだろう2023/10/12
E
10
随所に名文あり。途中の若干宗教めいた部分は共感できず、読み進めるのが苦しかったが、概して素晴らしい理想と人としてあるべき姿を学ぶことのできる良書だと思う。シンプルだけれど、深い。2014/11/30