内容説明
重い腎臓病を抱え、命懸けで将棋を指す弟子のために、師匠は彼のパンツをも洗った。弟子の名前は村山聖。享年29。将棋界の最高峰A級に在籍したままの逝去だった。名人への夢半ばで倒れた“怪童”の一生を、師弟愛、家族愛、ライバルたちとの友情を通して描く感動ノンフィクション。第13回新潮学芸賞受賞作。
目次
第1章 折れない翼
第2章 心の風景
第3章 彼の見ている海
第4章 夢の隣に
第5章 魂の棋譜
著者等紹介
大崎善生[オオサキヨシオ]
1957年札幌市生まれ。日本将棋連盟に入り、「将棋マガジン」編集部を経て「将棋世界」の編集長。連盟を退職後は、作家活動に専念している。『聖の青春』(講談社文庫)で新潮学芸賞、将棋ペンクラブ大賞、『将棋の子』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『パイロットフィッシュ』(角川書店)で吉川英治文学新人賞を受賞
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
616
感動の質は小説から受けるそれに限りなく近いけれど、これはノンフィクションである。村山聖。職業は棋士。「名人」に就くことを生涯で唯一の目標とした彼の闘いの記録である。29歳。A級1組に在籍(それは名人位の一歩手前ということだ)のまま、彼はその生涯を閉じる。夭折を宿命づけられた村山にとって、将棋の一戦一戦はまさに魂と命とを削るものであった。そんな彼の命を賭けた将棋と、文字通り命そのものが描かれる。将棋には詳しくはないが、それでも大いに惹きつけられるものがあった。光芒という言葉は彼のためにあったのだろうか。 2019/05/30
遥かなる想い
495
東の天才羽生に対して、 西の怪童村山と呼ばれながら、 病のため29歳で、その人生 を閉じた天才棋士の物語で ある。 5歳で発病し、そのどうしようもない 自分の中にある宿命と闘い ながら、将棋に希望を 見出だし、奮闘する様が 痛々しい。森と村山師弟が 見た夢とは何だったのか。 奨励会という将棋の天才 たちがしのぎを削る場で 勝ち上がっていく村山が 見たものは…そして 届かなかった夢とは 裏腹に、その純粋な 想いのようなものがいつまでも 心に中に残る、人生だった。 2015/11/23
ミカママ
334
聖の狂気がかった生き様に圧倒されました...が、それに振り回されていた周囲が少し気の毒な気も。作中の、彼の人間臭いセリフが救いでした。2016/11/30
yoshida
276
幼少期にネフローゼを患った村山聖。病床で父と指した将棋をきっかけに、聖はプロ棋士、そして名人を目指す。長くは生きられないことを自覚している聖の将棋は、まさに命懸けであり最後まで諦めない。プロ棋士の階段をかけ上がる聖の前に並び立つ谷川と羽生、そして病魔。時間が限られている自覚から、将棋も私生活も純粋で真っ直ぐなのだ。A級棋士に登り詰め、これからという時に聖を病魔が襲う。29才で村山聖は世を去る。彼を取巻く家族や森師匠の温かさに胸が動く。3月のライオンの二海堂君のモデル。生き急いだ怪童。しかし濃密な人生だ。2015/11/03
ビブリッサ
273
勝ち=生。負け=死。と、棋士の間では普通に会話に出るようだ。盤上の格闘技の世界で、大きな流れ星のように光って消えた村山聖の生涯。大病を抱えての一局は、まさに命を削る行為だったはずだ。人懐こいかと思えば、我儘になり酷い物言いをする聖。行動の一つ一つが若く蒼く痛々しい。そして同時に熱く眩しい。勝ちたいよりも負けたくないという強い感情は、将棋で勝ち上がることによって生を掴みとり、死を捻じ伏せられると思っていたのかのようだ。彼だけの神に彼は祈っていたのかも知れない。彼の棋譜は、彼の血肉、生きた証しとして輝く。2017/09/13