内容説明
戦時中に青春を過した主人公は、学徒動員で海軍に入隊。戦友の多くが死んでいったなかで、現在も生きているのはほんの偶然の結果だという感覚に支配されている。戦後社会との違和に直面しながらも、生活者として中年にいたった現在を描く代表作「青葉の翳り」。他に短篇的趣向の名品を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Yuki Ban
2
昭和版齋藤飛鳥な小説。飄々としながら諦念しきった主人公がいる。戦争の陰が差しているところが昭和版とした所以だ。「戦争がなかったら」、自分はどう老いていったろう、どんな恋愛をしたのだろう、死んでいった仲間たちはどうしていたろう、生活は豊かになっていただろうか。そんなことを節あるごとに思いながら、思っても仕方がないとしながら、乗り越えねばならない現実には淡々と直面していく。短編の中には人格があって喋り出す意味深な犬や魚たちが登場するものがある。彼らはコミカルには動かない。彼らも大いなるなにかの歯車でしかない。2018/04/11
Yossarian
1
なかなか読み過ごせない短篇ばかり。霊三題が特によい。読んでいくなかで静か過ぎる文体が気になってくる。静かさの裏から見られている。案外、息の長い一文がある。小説の違和感が指をつたって絡みついてくるような、展開される物語へと語りの間にあった距離が、そのまま自分の周りにもあったことを自覚されるような、しかしそう感じて読んでいる時、物語の距離は無くなっているのだ。表題作、十五。海水浴、ここの描写、小説の仕掛け、言葉の組み立て方は見事としか言いようが無い。
アキヤマ
0
ほとんど私小説っぽいところがいい2014/11/18
AR読書記録
0
「スパニエル幻想」。なんだか椎名誠を連想した。超自然的な設定のなかで、物語が自然に展開する。そしてふと放り出されるように終わってしまう。しかし男と女のかみあわない徒労なやりとりはほんと、不毛だな。戦争体験を描いたものも含め、全体にあきらめというか達観というか無常感が色濃く、なんだか静かすぎる気もするのだが(解説にある「非「私」小説」という言葉、なるほどな)、そのあたりは真正面に戦争と、また還ることのなかった人たちと向き合った(のであろう)作品の『雲の墓標』を読んでから、考えてみねばなと思う。2014/05/07
AR読書記録
0
どんな印象かといわれれば,飄々というのが一番にくるでしょうか.あまり“阿川風”みたいな味が感じられることはなくて,なんとなく誰かの作風に似てるな...でもそこまで濃くもなく...という,微妙なポジションにあるように感じます.その点で,エッセイの方がこの人ならではの味,作家らしさを感じられるとは思うけれど,文豪の時代には遅れ,戦後の新しい(これ別にプラスの意味というわけではありません)波には乗りきれず,という微妙な世代を表す一つの作品群になっているんじゃないかなと思ったり.2011/09/07