内容説明
少年時代に受けた屈辱により、南部で人間として認められるには「土地と黒人と立派な家」を持たなければならないと思い知らされたサトペンは、その野望の達成に向けて邁進する。しかし最初の妻に黒人の血が混じっていることを知って捨てた報いにより、築き上げた家庭は内部から崩壊していく。小説表現の限界に挑みながら二十世紀文学の最先端を歩み続けたフォークナーの渾身の大作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ドン•マルロー
23
アブサロムというのは、旧約聖書に登場する、父親のダビデに背いて殺された息子の名前に由来するのだそうだ。それは南北戦争に敗れたアメリカ南部が、連綿と引きずることとなった過去の栄華に対する憧憬の念(換言すれば永遠の父性とでも言えるだろうか)が、その後の未来に至るまでいかに重苦しく横たわっているのかということを、比喩的に表しているのだろう。南部人であるフォークナーはその化け物じみた土着的父性と宿命的に、真っ向からむきあったのだ。「書くことの必然性」とはまさしくこのことを言うのだろう。何度も再読したい作品だ。⇨2016/01/18
fseigojp
20
風と共に去りぬと読むと南北戦争のことが、よくわかる 2016/05/14
白黒豆黄昏ぞんび
19
ページが進まないのに何故か読むことをやめられない。黒人差別、近親相姦、殺人、貧困。頑固なまでに幸福を知ろうとしないまま死んでいってしまった人たちの物語。楽しい読書ではなかったが、記憶に残る読書ではあった。2015/01/11
NAO
16
黒人奴隷がいることによって成り立っていた南部アメリカ。南北戦争に負け、黒人が開放されたあとでも、その南部社会の呪縛にとりつかれていたサトペン。いつまでも過去を払拭できないアメリカ南部という土地の宿命を描くためには、こんな風に神話的に描くしかなかったのだろう。サトペンについて語るクェンティンも、アメリカ南部の宿命にとりつかれた一人。彼の未来は、明るくないんだろうな。2015/06/07
マリリン
12
上巻は非常に読みにくさを感じたが、身体の中に暖かい血液が流れているのを感じる不思議な読了感を持った。脳裏に「ミシシッピ組曲」の父なる河の旋律がよぎった。舞台はアメリカ南部、非常に社会性を持った作品であり、ノーベル賞作家であることは本書を読み始めて知ったが納得できた。2017/10/31