内容説明
文学に憧れて家業の魚屋を放り出して上京するが、生活できずに故郷の小田原へと逃げ帰る。生家の海岸に近い物置小屋に住みこんで私娼窟へと通う、気ままながらの男女のしがらみを一種の哀感をもって描写、徳田秋声、宇野浩二に近づきを得、日本文学の一系譜を継承する。老年になって若い女と結婚した「ふっつ・とみうら」、「徳田秋声の周囲」なども収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
66
所謂私小説作家。正宗白鳥や徳田秋声など。私小説の定義は知らないが、身辺雑記に終始するという印象がある。タコが自らの足を喰って生き延びるような(← 間違った認識)。関心が決して社会や国や世界には向かわない。まして政治などには背を向ける。卑屈。美的に言えばセンチメンタル。世相は、戦前は治安維持法で多数の犠牲者が出て、為政に声を上げるのは憚られるようになったことがあるか。戦後にしても、一気に価値観が転倒して常識の前提が呆気なく崩壊したことも。内向する目。それでも読むに値する作家はいる。川崎長太郎も。2023/11/22
三柴ゆよし
14
ガチガチの私小説を読むのはひさしぶりだが、やっぱこれだな、という感じで、自分の好みを再認識した。24歳の若書き感あふれる(芸そのものはまるで変わっていないが!)処女作から晩年の作品まで収録されているため、川崎長太郎の滑稽でわびしく、されど危うい文学に触れるには、本書はとてもいい。寝たきりの母親に馬乗りになって奪った金歯を質入れしたり、師・徳田秋声の女性関係を、かなりの部分暴露していたりと、読者の側がひやひやするような箇所も多く、それがまあ私小説の醍醐味のひとつなのだが、個人的にはとにかく文章に痺れた。2012/01/18
ゆとにー
11
人間関係が赤裸々に書いてあるこれぞ私小説という感じの文章。難しいわけでもないが淡々と必ずしも面白くもない人生の苦労の描写が続くので、半ばで読むのを止めていたが、なんとか最後までページをめくった。でも、そういう人もいたという何かしらの痕跡は確実に残る読書だった。2021/08/23
fseigojp
10
げっそりするほど自虐的 徳田秋声の系譜か なるほど2015/07/29
ステビア
9
私小説を読んだなァという感じ。「抹香町」が白眉である。2017/10/25