内容説明
敵の戦車に人間爆弾となって廃兵が飛込む訓練を繰返す。そんな理不尽きわまる敗けいくさ。夫たちが徴兵され、著者がいみじくも名付けた半後家たちとの置き去りにされた生活。“一年が百年にも感じられる”流謫の生活の中でも、市井に生き続ける“在野”の精神を飄々たる詩魂で支え、正に“人生の歌”を歌った木山捷平、中期・晩年の代表的短篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
厩戸皇子そっくりおじさん・寺
75
また木山捷平を読んだ。この短編集で私が静かに感動したのが、表題作のひとつ『苦いお茶』。捷平さん(作中では「正介」)が、満州にいた頃に可愛がっていた那子(ナー坊)という女の子に図書館で再会する。当時はよくおんぶしていた子供が大学生になっていた。捷平さんとナー坊は飲みに行き、酔ったナー坊は久しぶりにおんぶを求める。快くおぶる捷平さんと喜ぶナー坊に泥酔した男子大学生が侮蔑を浴びせる。するとナー坊は…実にいい短編である。女性は男に包容力を求めるが、男も包容力のある女性が好きである。強くなりたい。優しくなりたい。2019/09/10
禿童子
19
木山さんは、悲惨な体験をユーモアの言葉で語るという稀有の才能を持つ作家である。今から50年以上前に書かれた作品を、当時の木山さんの年齢の私が読んでも人生の機微を汲み尽くせない憾みが残るが、『白兎』『苦いお茶』の中を流れる時間に胸を突かれる思いがするのは文学の力と言うしかない。『豆と女房』は、満州から引揚げた直後の鳥ガラのようになって再会した木山さんの全身をなでる妻の愛情に感涙を禁じえなかった。1円玉3枚へのこだわりから生まれた『軽石』は、日常の中の奇蹟の瞬間を描き出す。味を覚えると次々に読んでみたくなる。2018/12/17
こうすけ
16
木山捷平、後期の短編集。良作揃いで、個人的に『軽石』も好きだったが、『苦いお茶』が抜群に良かった。『大陸の細道』のその後ともいえる内容で、敗戦後、満州から引揚げるまでの、1年にもおよぶ難民としての日々を題材にしている。難民の恐怖と苦悩をリアルに描きつつ、当時出会った少女と、10年以上経ってから再会するという、切なくも爽やかな物語。しかし、ただの心暖まるストーリーにするのではなく、満州の夜、その少女の母親とこっそりやっちゃう話も描かれていて、そんな木山捷平の人間観が最高に素晴らしい。2023/08/04
軍縮地球市民shinshin
13
木山作品を連続して読んだ。短編の名手とだけあって、なかなかシブイ作品が多い。終戦直後の満州のことを書いた作品でも、悲壮感は伝わってこないのが素晴らしい。「軽石」は、屑鉄を売って儲けた3円で何が買えるか吉祥寺あたりをさまよって3円均一の軽石を買ってきた、というなんでもない日常を書いた作品だが、なぜか心に残る。2017/07/16
hitsuji023
9
「市外」「豆と女房」が良い。他の作品もいいのだが、もう何冊も読んでいると同じような内容の話が出てきて、味わい深いし、面白さもあるけれど、自分にとって新鮮味がなくなっているので低評価。しかし、奥さんの解説が良かった。一緒に生活していた人が見た実際の著者の姿が浮かび上がってくる気がする。「敗戦後の一年は、人間の生命百年を耐えたことと同じ意味をもつ」と言った木山捷平の作品は飄々としているがその言葉や背景は重いものがある。2022/12/18