内容説明
「おれが死んだら死んだとだけ思え、念仏一遍それで終る」死の惨さ厳しさに徹し、言葉を押さえて話す病床の父露伴。16歳の折りに炊事一切をやれと命じた厳しい躾の露伴を初めて書いた、処女作品「雑記」、その死をみとった「終焉」、その他「旅をおもう」「父の七回忌に」「紙」等22篇。娘の眼で明治の文豪露伴を回想した著者最初期の随筆集。
目次
雑記
終焉
すがの
かけら
手づまつかい
造語家
鴨
れんず
旅をおもう
水仙
膳
父の七回忌に
このごろ
てんぐじょう
紙
結ぶこと
ほん
ぜに
二百十日
在郷うた
対髑髏のこと
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Gotoran
35
父、幸田露伴の最期と生前の思い出をつづる随筆選集。幸田露伴の娘、文。幸田露伴は80歳で亡くなる。晩年出戻りの娘、文が父の面倒を一手に引き受けていた。父と娘の濃密な会話。世間から文豪の評価の大きな父を持ち、常に討論では、ものの見事に論破される。常に引け目を感じてもいる娘。尊敬してやまぬ父だが、その反面実の親子である。剥き出しの感情を薄くベールに包み、遠慮で包み込む日常が、興味深い。自分が看取ることになる偉大な父との日常が描かれている。 2023/08/02
sabosashi
15
もともと文を編むことには縁がとぼしかった著者が、亡き父露伴について綴ることをもとめられたがゆえに否でも応でも思い出を記すにいたる。 したがって当初は拙く、それでいてういういしいところも見られた。しかしこの水準に留まるならばやがてはもとめられることはなかっただろう。ところが十年足らずのうちに書き綴ることに秀でていくことが手に取るようにわかる。眼の付け所やら思いの辿り方が凡庸なるひとと異なっている。その自己プロセスを辿るのも一興なり。 2024/01/05
topo
6
娘の眼で父 露伴を回想した随筆集。 幸田さん独特の形容詞と文体で語られる文豪露伴の性格はもちろん当時の市井の人々の生活も興味深く読んだ。 特に空襲下での緊迫した親子のやりとりを含む『終焉』は傑作。 病床の親を案じる子、子の命がすべての親の心情が痛いほどに伝わる。2019/07/25
amanon
4
著者が父親を看取る経緯、また父親との愛憎入り混じる関係はこれまで手を替え品を替えという感じで読んできているはずなのに、それでも読むたびに心にストンと落ちてくるものがあるのはどうしてだろう?それこそが著者の持ち味と言われればそれまでだけれど、それだけでは片付けられない深いものがあるような気がしてならない。一つには父露伴の偉大さがあるだろうし、また著者が類稀な身体感覚と感受性を持っていたからだろうと想像する。後驚かされたのが永井荷風とのエピソード。露伴と荷風との邂逅が実現されなかったのは、返す返すも残念。2018/04/21
ムツモ
3
母の本棚から。一体、親が死ぬときに「もう行っちゃうよ」「はい」などと言葉を交わせるものだろうか。家族の病、死、大震災、戦争などを生き抜いて常に覚悟のようなものがあったのだろうが、しかし私の未熟さを知らされる。父娘の暮らし、昭和の風景などと共に忘れ難い一場面となって残る。折に触れ再読したい一冊。2019/09/20