内容説明
“女躰でありながら精神はあくまでも男”荒御魂を秘めて初々しく魅惑的な十一面観音の存在の謎。奈良の聖林寺の十一面観音を始めに、泊瀬、木津川流域、室生、京都、若狭、信濃、近江、熊野と心の求めるままに訪ね歩き、山川のたたずまいの中に祈りの歴史を感得し、記紀、万葉、説話、縁起の世界を通して古代と現代を結ぶ。瑞々しい魂で深遠の存在に迫る白洲正子のエッセイの世界。
目次
聖林寺から観音寺へ
こもりく 泊瀬
幻の寺
木津川にそって
若狭のお水送り
奈良のお水取
水神の里
秋篠のあたり
登美の小河
龍田の川上
姨捨山の月
市の聖
清水の流れ
白山比〓の幻像
湖北の旅
熊野詣
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐々陽太朗(K.Tsubota)
94
湖北が好きである。しっとりとした落ち着きを感じさせる土地。寂しけれどけっして寒いのでも暗いのでもない、私は湖北にある種の豊かさを感じ、そこに少しでも長くいたい心持ちになる。私は白洲さんの語る湖北の情景に魅せられた一人である。美しい文章の流れ、感情を抑えた筆致がかえって白洲さんが近江の地に寄せる深い思いを感じさせる。私も渡岸寺の美しい十一面観音像に会いに湖北を旅しよう。もちろんこの本を携えて。2017/06/30
chantal(シャンタール)
86
白洲正子さんが京都奈良を始め、若狭、近江、信濃、美濃、熊野の十一面観音を巡礼する。天照大神と同体とする本地垂迹説や地蔵とのコンビ仏であることや水神であり、各地の龍神伝説等と関係が深いと言った考えが全編を通して語られる。若狭の神宮寺で行われる「お水送り」も紹介され、奈良と水で繋がっている話は興味深い。昔から「神仏習合」が自然と日本人の信仰心に根付いていることが、この本を読むととても深く理解出来る。「信仰の対象として作られたものはそう言う環境において見るべき」仏様は収蔵庫ではなくお堂で拝みたい。→→2020/04/19
さつき
73
ずっと前から気になっていた作品でしたが、私にはちょっと敷居が高いかなぁ…となかなか手を出せずにいました。読友さんのレビューを拝見したことで読むきっかけになりました。出会いに感謝!旅の舞台は大半が奈良であり、他には京都、若狭、湖北、熊野など訪れてみたい場所ばかり。時代の移り変わりを嘆くことはあっても、十一面観音をお守りする寺々や、周辺の人々に寄り添う姿勢を崩さない書きぶりに、私も穏やかな気持ちになりました。登場するお寺は関東者の私には遠いので、まずは身近な観音さまにお参りに行きたいです。2020/06/27
レアル
60
大好きな奈良から出発した「十一面観音」を巡る旅のエッセイ。通読もしたことあるが、最近は奈良のお寺巡りをする際にその箇所を予習読みするのがこの本の読み方。ただ今回は「私の経験から言っても十一面観音は、必ず山に近い所、山岳宗教と関わりのあるお寺に祀ってある事が多い!ことに興味を覚えた」とこの本に書かれていた事を思い出して、読み返したくなったから。ただ読み返して分かった事は、この本は山岳宗教との関連ではなく「十一面観音」を描いた本。成果には達成しなかったが、こんな本を読むと十一面観音に無性に会いに行きたくなる。2019/05/22
まさ
35
少しずつ読み進めていた1冊。はぁ、読み終えてしまった。巡礼の旅で訪れる地域に思いを馳せて、自分も訪ねたくなる。刺激をたっぷりと受ける一方で、穏やかになれます。1つ1つの地に根づく信仰・民俗を理解できるようになりたい。2020/07/02