内容説明
戦争末期の離島での“特攻”命令を待つ若き特攻隊長と若い島の娘でもある女先生の、苛烈な非日常の中の“愛”。処女作「はまべのうた」から「島の果て」「徳之島航海記」「アスファルトと蜘蛛の子ら」を経、昭和24年末の名篇「ロング・ロング・アゴウ」まで、島尾敏雄初期秀作を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
65
戦争が日常を侵していく、精神や肉体を蝕むということが具体的に描写されており、それだけでなく文学的にも優れている。著者のバックグラウンドを知っていると意味を付与できる。こういう作品は読み継がれるべきである。人の営みはうつくしいものなのだと戦争との対比で再認識できた。2019/01/23
龍國竣/リュウゴク
0
前者は、戦時中に島の人びとに捧げられた処女作である。これが童話に似る体裁をとっていることが島尾文学全体を俯瞰する手掛かりとなる。後者は、生真面目であり病的な神経質さをみせる島尾作品の中で、珍しく情感豊かなロマンスとなっている。2013/10/13
AR読書記録
0
息子さんの『月の家族』を読んでからこれを読むと,どうも奄美(加計呂麻)のイメージがぶれる.そんな夜中に明かりもなく山道を歩いて,ハブは大丈夫だったの?とか.美しいイメージやほんとうにおとぎ話のようなシチュエーションに心ふるえる部分はあるけど,「出発はついに訪れることなく,二人は結婚しました.めでたしめでたし」のあとの物語を知ってしまっている身としては,なにかこう釈然としない思いも残る.2013/07/10
Lieu
0
戦争中の海軍士官時代の話と、戦後の夢らしき捉えがたい話、あと少年時代の話の「唐草」が一編。戦争中の死と隣り合わせの日常を描いたものの方が明るく静謐なメルヘンの雰囲気であるのに対し、戦後の夢物はセピア色の不安と倦怠のエロスに満ちている。ただ「ここではない場所」を求めてさすらい続けることは、この短篇集全体に共通するテーマなのかもしれない。2022/11/20