内容説明
十八年前の療養生活を終えた志穂子は二十四歳を迎えるまえの日に、生まれて初めて電車に乗った。病状に奇蹟をもたらすきっかけとなった一枚の絵葉書の差出人、梶井克也に会うためだった。しかし志穂子は、その人物にまったく心当りがないのだった。―そんな人が、なぜ、私に絵葉書などくれたのだろう。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こばきよ
33
十数年ぶりに再読。宮本先生の小説に魅かれるきっかけとなった小説。印象としては、一昔前にはあった夜10時台にやっていた落ち着いた雰囲気のあるドラマのような感じ。18年間も結核により療養所暮らしをしてきた主人公が24才であらためてというか、初めてというか世の中に漕ぎ出すこと、普通に恋愛することの難しさ。だけどその18年は決して意味の無いものではなく、人格形成において貴い部分を形作っている。上巻では、病気の回復のきっかけとなった梶井がいやな奴。下巻どうなるんだっけっていう感じ。2013/09/11
みみずく
14
ここに地終わり海始まる、という言葉とともにロカ岬から絵葉書をくれた梶井という男。その言葉が志穂子に奇蹟をもたらし、18年間の療養生活を終えることができた。是非お礼を言いたいと梶井を探す志穂子だが…。始めから志穂子の清らかな聡明さに好感を持ち、梶井探しに協力してくれる初めての友達ダテコと尾辻にも爽やかな魅力を感じる。が、それに引き換え梶井とその元恋人でもある由加のなんともダメさ具合が目立つ。全て見透かされている梶井と志穂子はどうなっていくのだろうか…。2014/09/15
ミカママ
12
長年入院して世間をまったく知らない、というほとんど非日常なお嬢さんの恋愛物語。かなり美化されて書かれてますね。宮本さんも結核で入院されていたことがあるので、そのときの経験がもとで生まれた小説なのでしょう。はてさて、このお嬢さんはどちらの男性と結ばれるのか?2012/04/01
麦のみのり
11
生きることのプロになろう とふと思った。何気なく過ごす時間の素敵さも大切にしながら、なおかつそうなろうと。久しぶりの再読。「教養を積まなければ」と、新しい社会に出ていく志穂子。自分の言葉で話すことができる、それが魅力なのだなぁと思いました2015/12/07
エドワード
11
私はロカ岬へ行ったことがある。本の通り大西洋からの海風の強い所だった。このタイトルで宮本輝と来たら、ポルトガルが舞台か、と思わせて、実は全く日本から出ない。主人公の志穂子は6歳から18年間結核で入院していて、奇跡のように24歳から人生、青春のただ中に入っていくことになる。その嬉しくも怖いような、あやうい気持ちの揺れが繊細に描かれている。特に悪い男も女も出てこないが、何人かの男女関係が生まれつつあるところで上巻終了です。2011/06/08