内容説明
神話の条件として著者は、「神々の物語が、一部の人の創作でなく広く民衆に支持され、宗教性と呪術性をもつこと」をあげる。『記・紀』編纂の過程で、また明治以後の歴史教育のなかで、日本神話はどのような潤色が加えられたか。天孫降臨の話やヤマトタケル伝説、三種の神宝などの具体例をもとに、綿密な文献学的方法による研究を進め、古代国家の歴史と形成に果たした神話の実体を明らかにした労作。
目次
1 日本神話の歴史(『記・紀』と日本神話;『古事記』の史実性―天皇系譜の例;『記・紀』神話・伝承の差異とその背景;日本「神話」にみる作為と変形;比較神話学からみた「記紀神話」―ヤマトタケルとモモソヒメはなぜ死んだか)
2 建国神話の形成(神武天皇と古代国家;治定以前の神武天皇陵;「天皇陵」偽造の歴史;日本古代統一国家の形成)
3 古代史研究と津田史学(神話と史実―津田の文献学的研究;津田左右吉の『神代史の研究』;『記・紀』批判と津田史学;日本古代史の研究と学問の自由―森鴎外・三宅米吉・津田左右吉を中心に)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
レアル
45
元々私自身「『記紀』の神話」に信憑性を求めた事もないのだが、それを実証してくれる本かな。神話とその史実性。またなぜ真実味のない神話が作られたか。そしてその神話を国家はどう利用したか。最後に津田氏の「神代史の研究」等興味深く読んだ。ただ古墳好きの私にとって信憑性のない天皇陵を訪れた際に「本当はどなたが眠っておられるのか?」と冷めた気持ちで見学するより「『記紀』のどのような記述からここがこの天皇陵なったのか」と楽しんでいるが、それをきっぱりと「あれは単なる山」言い切られると分かってはいても何だか切ない。2021/03/20
AICHAN
43
図書館本。考古学資料等をもとに神代の天皇の実在を否定していく。古事記と日本書紀が天皇家にとって都合の良いように書き換えられていることを証明する。きのうはちょうど今上天皇と皇后さまが伊勢神宮に退位の報告をしにいかれた。その数日前には神武陵にも。天照大神にしろ神武にしろ架空の存在というのはほぼ通念だから、今上天皇と皇后さまの心中は複雑だったのではないかと思った。著者の師匠はかの津田左右吉。その学説を踏襲する形で論を進めていく。自分なりの説でもっと自由に論を張ってほしかった。2019/04/19
yamahiko
17
古事記、日本書紀は権力による創作物であり、神話の名にも価しないと断じる。スリリングで明晰な論はとても刺激的でした。古代史の興味はつきません。昨日、三輪山に登拝し、石上神宮に参りながら自分は何を崇めているのか自問しながら読了しました。2018/09/30
モリータ
13
高校の偉大な先輩の一人(ご存命)。津田左右吉という偉大な先行者との関係はよくわかりました。記紀の成立と「神話」の関係の否定的な側面は確かにロマンいっぱいの解釈を求める気持ちからすれば読んでて楽しいものではないけど、それ以上に確かな事実を知ることができるのはいいですね。天皇制と記紀成立の関係や初期天皇の非実在性に基本線は変わらないはずなので、記述的事実がアップデートされているのについていきたいですね。2016/02/21
isao_key
9
再読。日本の神々や神代の物語に関する論考から、古代国家の形成に関連するものを中心に14編を集成した書。「神話を疑う」ことから研究を進めてきた著者からはフィクション、神話と史実、出土資料等とを明確に分けて考える必要があるという信念で貫かれている。この本は学術論文であり、学術文庫に並べられるにふさわしい一冊である。津田左右吉博士の研究を考証し直し蘇らせ、偉業を掘り起こしている。と同時に古代史の研究は津田博士以降も停滞したまま、一歩も先に進んでいないのではないかとの危惧を表す。学問に対する厳格さを教えてくれる。2014/06/09