内容説明
奸臣を誅滅し、天皇親政を実現しようと立ち上がった青年将校たち。昭和の忠臣蔵といわれる二・二六事件。従来、処罰の過酷さや裁判の政治性に隠されていた事件の真相が、新出裁判調書や供述をもとに、証言をつきあわせ、時系列で追ってみると、次第に明らかになっていく。本書は、まぼろしの存在だった事件の正式裁判記録を探し出し、発表してきた著者による、まさに「二・二六事件全事典」である。巻末付録として、二・二六事件の半年前の精神的先駆けとなった暗殺テロ、相沢事件の東京地検保管未公刊判決書を全文収載する。
目次
1 憂国の青年将校運動
2 陸軍のヘゲモニーをめぐって
3 決起の前夜
4 雪の挙兵
5 鎮圧
6 軍法会議の開催
7 事件後の陸軍
著者等紹介
北博昭[キタヒロアキ]
1942年鳥取生まれ。71年東京都立大学大学院修士課程修了。近代日本政治史専攻
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感想・レビュー
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skunk_c
22
2003年刊。裁判記録などの資料を詳細に吟味しながら、従来の通説を批判的に検証している。特に石原莞爾についてはその強硬化が28日になってからと、意外と遅い認定。筒井清忠の『陸軍士官学校事件』と併読するとこの頃の「皇道派」若手将校の動きがよく分かる。「君側の奸」を掣肘することだけを目指し、後の計画がない(計画は天皇大権の干犯となる故)ため、はるかに狡猾な真崎などにあしらわれていく様子が分かるが、この状況判断に弱い直情的なエリート軍人を生み出した教育システムの再検討も必要か。巻末の相沢事件判決も興味深かった。2018/07/30
筑紫の國造
4
新年一発目の読了本。二・二六事件を発端から時系列順に追い、通説を冷静に批判・検討してゆく。関連本が非常に多い同事件なので、この本で大まかな交通整理ができる。逆に言えば、従来の関連本をある程度読み、予備知識を蓄えておかねば内容がわからず、初めて読むには向かない本と言える。言葉使いにも少しおかしな所があり、用語の厳密な定義を必要とするこのようなテーマを扱う著作としては、少し不安が残る。2016/01/04
Lieu
3
確かに真崎大将は黒幕ではなかったのだろう。しかし権力者たちが真崎を無罪にしようと画策する一方で、直接関与していない北や西田、牧野暗殺が未遂に終わった湯河原襲撃グループを指揮した民間人を極刑に処すなど、判決には偏りがあるように思う。やはりいつの時代も大きな組織というのは、不祥事の責任を問うときに、上層部の老人に甘く、若者や部外者・非正規の人材を切り捨てていくものなのだろうか。2021/02/17
wuhujiang
3
主に裁判記録をもとに、二・二六事件の展開を追っていく本。裁判記録の発見によって多くの事実が明らかになったことがうかがえる。蹶起側でも少数の主導派の言動ばかり追いがちだが、蹶起した将校の性格は様々であることが本書からわかる。(今まで注目されていた磯部等の主動派に加え、快諾組、慎重組、引き込まれ組)また、そうした一枚岩の集団ではなかったこともあり、本人たちの蹶起計画は極めて甘い計画・統制のものに実施されたこともわかる。2020/05/23
ゾーンディフェンス
1
この本によれば、二・二六事件は計画性も将来の構想も曖昧なまま始めてしまったというのが真相らしい。そういう意味では今までドラマや小説等によって植え付けられていた二・二六事件に対する印象がガラリと変わった。巻末に付録として二・二六事件の半年前に起きた相沢事件の判決書が付いているがこれは必読。特に二・二六事件の4か月後に下された上告審の棄却判決を読むと、こうした事件に対する軍の厳しい姿勢が伝わってくる。まあ、被告側が上告した理由も理由だという気はするけどね。2019/11/25