出版社内容情報
自動車は現代機械文明の輝ける象徴である.しかし,自動車による公害の発生から,また市民の安全な歩行を守るシビル・ミニマムの立場から,その無制限な増大に対する批判が生じてきた.市民の基本的権利獲得を目指す立場から,自動車の社会的費用を具体的に算出し,その内部化の方途をさぐり,あるべき都市交通の姿を示唆する.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yumiha
53
経済学は(も?)苦手だから、スルーしてきたのだが、『わたしのなつかしい1冊』での紹介につられて読んでみたいと思った。ちなみに本書は1974年に出版され、今なお増刷されているようだ(2014版で41刷)。すでに約50年まえの著作なので、当時とは状況が違うだろう。でも、自動車による社会的費用を、道路を管理すべき地方自治体や利用する人々だけではなく、騒音や排気ガスなど環境面で被害を受ける側や、交通事故など命の危険にさらされる側にまで負担を負わせることで自動車産業の発展があったという著者の主張はうなずけた。2023/01/17
しんすけ
20
真の経済学者の怒りの書だ。その怒りは日本の現実に対してである。40年以上前に書かれた本なのだが、現代日本人の僅かな部分はその怒りを共有できる。 しかし本書は後半を過ぎると、市場の問題に深く関わった分析が始まる。 固定資本と流動資本の市場との関わり合いに関するそれはマルクスの再生産論を髣髴させる。それは自由主義市場の不安定に関する分析であり、計画経済の必要性を解いているようにも観える。 「資源に対する私有制を認めない」という発言もあり、そこから出発すべきであると説いているかのようである。2020/01/29
seki
19
自動車が登場してから、街並みはすっかり変わった。昔の町は人で溢れ、その中に申し訳なく、自動車が通っていたのが、今では人間をどかし、その財産まで動かして道路が整備され、有害なガスを吐きながら、我が物顔で車が走る時代。昨今、通りに人がいなくなった嘆く人がいるが、そのような社会にしたのは自動車社会にユートピアを見ていた人たちだった。確かに自動車は便利ではある。しかし、便利さを優先して、人間を疎かににするのは本末転倒であろう。今、街づくりを見直す必要がある。2023/09/25
くまさん
19
44年前の内容がまったく古びていない。社会的費用とは、経済活動が「第三者あるいは社会全体に及ぼす悪影響のうち、発生者が負担していない部分」を計測し集計した額のことで、本来は車の所有者や運転者が負担しなければならないものであるとされる。車はいまも皆が乗るものではなく「選択的に消費」されるもので、他人の基本的権利を侵害しない構造をもつ道路と被害の防止装置が社会的公平性・安全性の観点から要請されるという分析は至言だと思う。親しい人を公害や事故で亡くした苦しみにまで目配りする、あたたかなまなざしが忘れられない。2018/06/10
501
18
自動車の利用者がコストをそれ相応に払えば、利用者も非利用者も幸せになれるかというと、そんなことはない気がしてしまうが、現代は社会に対する自動車の在り方が偏向していて、その歪さが当たり前になっている状態なのだろう。歩行者の権利がもっと尊重されるべきとう主張に、その通りだと思うと同時に、なんで自分が日常からそう思っていないのだとはっとする。現在時流となっているMaaSやCASEという自動車まわりの変化があるが、こういった動きがこの問題を改善していくのに期待したい。2021/02/22