出版社内容情報
当時の貧民街のルポは他にも、松原岩五郎『最暗黒の東京』(岩波文庫五〇〇円)などいくつかあるが、そういった資料をまとめて書いた紀田順一郎『東京の下層社会』(ちくま学芸文庫九五〇円)がよくできている。横山のことを知りたければ、手っ取り早くこれを見るとよい。.....。(立花隆『ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術』364頁、より)
内容説明
明治中期の東京下層民の生活実態を克明に記録したルポルタージュ。二葉亭四迷の影響で下層社会の探訪を始めた著者(1866‐1935)が、貧民街に潜入、職業を転々としながら、木賃宿の実情や日雇人夫・見世物師・車夫等の暮しぶりを描き出したもので、横山源之助『日本の下層社会』とならぶ明治記録文学の傑作。
目次
貧街の夜景
木賃宿
天然の臥床と木賃宿
住居および家具
貧街の稼業
日雇周旋
残飯屋
貧民と食物
貧民倶楽部
新網町〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シルク
12
時代は明治。著者、身なりをみすぼらしくして、東京のスラム街に潜入! ルポ! って本。「まあその、貧民として暮らすにしたって、労働せにゃぁ、その社会に食い込めぬ」つって、残飯屋で働き~の、質屋で働き~の……。残飯屋では、大学食堂やらの残飯を仕入れてきて、ズルズルになったようなご飯やら、誰かの歯形がついてるたくわんやら、ひと椀いくらとかで売りさばく。それだって貧民にとっては、貴重な食料。栄養。ガソリンだ。時折その仕入れの都合がつかんような時もある。(→ コメント欄につづく)2018/09/04
壱萬弐仟縁
10
蚊、蚤、シラミの不衛生な臥床、木賃宿(25頁)。鹿鳴館だろうが、庖厨(だいどこ)だろうが、軽重なし(28頁)。上流だろうが、下流だろうが、同じ人間。リアルな筆絵が挿入されているので、これも当時の厳しい暮らしぶりが垣間見える。数十種の世渡り稼業(35頁)。多様な小稼ぎ。残飯屋は、現代のCVSから出てくる売れ残り弁当なのか。貧民倶楽部(9章)。現代の貧民倶楽部は、非正規の集いだと思う。非正規でもSNSに参加できるだけマシなのだろう。12章融通をみると、現代のサンタの創庫になるのだろうな。客を奪い合うシーンも。2013/08/14
moonanddai
9
明治20年代の東京の「下層社会」のルポ。「怪人」だの「巣窟」だの差別用語続々ですが、よくよく考えてみると、私の子ども時代でも、このままそっくりというわけではありませんが似たような風景は見たことがあったような気がします。車屋の客の奪い合いなどは、少し前にもタクシー同士で起こっていましたし、公衆衛生面の劣悪さについて、現実問題としてこのような境遇があってはならないのですが、(かなり平たく一般化してしまうと)当時の医療技術などからいえば、たくましく生き抜いてきたということでしょう…。今だってウイルス騒ぎだし…。2020/03/13
シャル
8
タイトルのとおり、明治となり、東京となった街の、光の当たらない貧困層に着目体験取材を重ねた一冊。日銭を稼ぎ、それさえも借り物の毛布や宿賃に消えていくだけの暮らしは、貧困が螺旋状になっていかに抜け出すことが困難なのかかを鮮明に描き出しており、江戸幕府が明治になっても、それだけで世界がいきなり変わるわけでもないことを思い知らされる。しかしここに書かれる貧困層の姿には個人それぞれの仕事と生活があり、現代の目から見ると、労働者を生み『工業』が世界を支配した近代との違いもまた浮き彫りにされているようにも感じる。2016/07/16
OjohmbonX
7
日清戦争前・産業革命前の明治東京のルポ。現在の観光地のイメージだと人力車は健康的で快活なイケメン青年が引くものだけど、当時は3割の車夫が虚弱者と老人で、遅く距離も走れないが安く、お金を恵んでもらって低頭する姿が描かれる。今のタクシー運転手の高齢化に近いのかもしれない。生活困窮者はまとめ買いの金銭的な余裕がないから材料費や炭代も割高になるという話も、低所得者が自炊できずにコンビニの割高な食費に圧迫されるのと近く、当時は残飯屋という廃棄食品を安価に売る商売があったというのも今のフードバンクに近いかもしれない。2018/05/05