出版社内容情報
中年男性,職業不詳,妻と娘1人,パリとローマにアパートを所有.それがパロマー氏だ.世界を観察することに徹しようとする彼だが….3種の主題が三層に三重に積み重なって,27の短篇が響き合う,不連続な連作小説.
内容説明
中年男性、職業不詳、家族は妻と娘一人、パリとローマにアパートを所有―これがパロマー氏だ。彼は世界にじっと目を疑らす。浜辺で、テラスで、沈黙のなかで―。「ひとりの男が一歩一歩、知恵に到達しようと歩みはじめる。まだたどりついてはいない。」三種の主題領域が交錯し重層して響きあう、不連続な連作小説27篇。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
90
「世界を観察することに徹しようとする彼だが…」彼は観察者に徹することはできない。そもそもなにゆえ観察者たろうとするのか。それは現前するはずの現実世界をありのままに捉えたいという欲求から。これまでの自分は、観る主体と見られる客体とがどこまでも対峙するに留まっていた。対峙するどころか、波動関数の崩壊のように、一旦、客体を捉えたと思った瞬間、それは思いもよらない他人行儀な<実体>となり、ありのままの、そこにあったはずの現実とは懸け離れたものに成り果てる。2022/05/03
アナーキー靴下
79
お気に入りの方のレビューに惹かれて。パロマー氏の尽きせぬ思索で織り成された連作小説。思索は内から外へ向かいながらも、その外部は自己を映し出す鏡面のようだ。だからこそ爬虫類館に長居できないのだろう。全体的に、何とも滑稽に描かれており、私自身もこうした思考遊びが好きなのでちょっと恥ずかしくなる。ひたすらに達成不可能な思考を続けてしまうのは、本能的な好奇心に屈し続けているということだ。思考を制御できないなら、何とかして達成させるしかないのかもしれない。パロマー氏の死で、世界が鮮やかに閉じられたように。2022/05/24
KAZOO
76
この小説は実験小説のような感じですね。3部、3章、3節の27の短篇連作のようです。筆者が書いているのですが順番に読んでいってもいいけど同じ説の番号を通して読んでもいいといっています。確かに話はあまり継続性はないのですが。岩波少年文庫の主人公も出てきます。2015/07/09
えりか
54
パロマー氏は「見る」。海辺で寄せてはかえす波を、動物園でシラコゴリラを、肉屋の行列で赤い塊を、竜安寺で石庭を、テラスで星空を。ただ目に映すだけではない。その先に広がる可能性を思考し、見つめ続ける。それはいつしか彼と対象との境界を越えて、無限の果てまで、思考がふっとんでいく。最終的には宇宙規模で、亀の交尾やチーズの欠片を考える物思いの耽り方。見ることに真摯すぎる。真摯すぎるがゆえに、彼の絶望が伝わってくる。答えのないものに対して、答えを求めようと見て、思考し、絶望し、時には発見し…そしてまた見て…2016/11/07
拓也 ◆mOrYeBoQbw
29
不連続短篇。形而上学的コメディ。中年パロマ―氏の日常と日々の観察を綴った、独白を中心とした短篇集。主人公パロマ―氏は見かけた様々な物から様々な形而上学的推論を繰り返しますが、概ね何かしらの失敗に終わる愛すべき人物です。しかし流石はカルヴィーノ。章、部、節によって視覚から瞑想に至る番号を割り振ったり(私にはよくわかりませんでしたがw)、引用など極力排除し、閉じた公理系を改めて再構築しようとしたり、幻想的な事象は全く扱ってないのですが、何処か夢見心地になる作品になってて面白いですね(・ω・)ノシ2017/08/18