出版社内容情報
本書に収められた五つの短編は,トルストイ晩年の執筆になる民話である.この頃作者は,宗教的・道徳的傾向を著しく深めていた.そして苦悩に満ちた実生活を代価として購ったかけがえのない真実が,幾多の民話となって結晶していった.これらの作品には,素朴な人間の善意に対する信頼と安らかな息吹きが満ちあふれている.
内容説明
ここに収められた五つの短篇はトルストイ(1828‐1910)晩年の執筆になるもの。作者はこの時期いちじるしく宗教的・道徳的傾向を深めていた。そして苦悩に満ちた実生活を代価としてあがなったかけがえのない真実が、幾多の民話となって結晶していったのである。これらの作品には、素朴な人間の善意にたいする確かな信頼が息づいている。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
lily
81
愛によって生きる。聖書を読めということらしい。それでも私は何も変わらない気がする。呼吸の成分の一部が愛だとしても依存することにはならないだろう。心を潤滑に解し包み込むのは愛だと知っているから多くは望まずとも満足できるの。2021/05/08
esop
68
マトリョーナ、おまえの心にゃ、神さまはいなさらねえのかい/親はなくとも子はそだつ、が、神がなくては生きてゆけぬ/すべてのひとは自分のことを考える心だけでなく、愛によって生きているのだ/人の罪は目の前だから見えるが自分の罪は背中だから見えねえのだ/この世では神がすべての人に死の刹那まで、愛と善行とをもってその年貢を果たすように命ぜられたのであること2024/02/01
スプーン
48
短編集ですが、内容はぶ厚いです。キリスト教の深みをしっかりとつかめます。この世は得たものではなく、与えたものがすべてなのです。2018/03/17
西野友章
46
文章は簡素でわかりやすく書かれた短編だけど、内容はよくわからなかった。時間をおいて再読したけど、ますますわからない。しかしこの作品、どういうことだろうと考えたくなる。自分だったらどうするかを考えてしまう。作品の中で問われている「なくてはならないもの」とはなんだろう。人にとって一番大切なものはなんだろう。「人間の中に神様がいる」ってどういうことだろう。この作品で何を伝えたいのだろう。いまいちよくわからない。ひょっとしたら、「なくてはならないも」とは、素っ裸でうずくまっている人を助ける「直感」なのかも。2018/09/13
田中
39
無駄な潤色が一切ないシンプルな短編が五つ収められている。どれも根源的な心の正しいありようを、わかりやすく例示する福音的な物語。困難な人に施す憐れみの精神や奉仕的愛情が結果として皆をゆたかにする。怒りと虚栄は、いっときに謳歌をあげるが、いつか必ず惨めな孤立に陥るようだ。最後に収められている「二老人」は、対比的な筋と両義的な要素があり、その旅路の模様も視覚的だ。もっと、長編にして、先を読みたくなる作品だった。 2021/03/12