岩波文庫
アドルフ (改版)

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  • サイズ 文庫判/ページ数 147p/高さ 15cm
  • 商品コード 9784003252512
  • NDC分類 953
  • Cコード C0197

出版社内容情報

『アドルフ』は特異な恋愛小説だ.発端の一章は別として,続く二章だけが恋と誘惑に当てられ,残る七章はすべて男が恋を獲た後の倦怠と,断とうとして断ち切れぬ恋の軛の下でのもがきとを描いている.つまり,物語は恋の成就に始り,人生の花が一つ一つ花弁を引きむしられ,精細に解剖されるのである.近代心理小説の先駆をなす作.

内容説明

これをしも恋愛小説というべきであろうか。発端の1章を別とすれば続く2章だけが恋と誘惑にあてられ、残る7章はすべて男が恋を獲たあとの倦怠と、断とうとして断てぬ恋のくびきの下でのもがきを描いている。いわば恋愛という「人生の花」の花弁の一つ一つを引きむしり、精細に解剖しようというのだ。近代心理小説の先駆をなす作。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

のっち♬

128
半自伝的恋愛小説。ときめきは二章でピークを迎え、後の八章は倦怠の過程に割かれる当時としては斬新な配分。情熱と冷酷、連帯と孤独の狭間で安住に至らない感情の機微が高度な文体調和のもとに明晰かつ簡潔に記される。そこには些細な感情秘匿が自責に飛躍して不幸が連鎖するという、自意識過剰や自己分析癖といった近代自由主義者の苦悩が見て取れる。全ては境遇ならぬ「性格のせい」という見解は今時万人の腑に落ちるものではなさそうだが、自己の流動性に個人主義観点で徹底フォーカスしたからこそ本作は近代心理小説の先駆けになり得たと思う。2023/09/19

新地学@児童書病発動中

74
恋愛小説の古典として名高い1冊。若い男性が10歳年上の女性に恋をするが―――。情景描写や会話を省いて主人公の心の動きに焦点を合わせている。精緻な心理描写は圧倒的でいかにもフランスの小説という感じ。恋愛の場の男性と女性のエゴのぶつかり合いを容赦なく描いているが、誰もが思い当たることが多いので、読んでいて私のように苦笑いする人もいるかもしれない。男性の身勝手さに作者は特に厳しい目を注いでいる気がした。心地良い小説ではないけど、人間の心の奥底を率直に描いたところは素晴らしい。冗長な表現をそぎ落とした文章も見事。2013/10/04

Major

22
恋愛始末記である。当時の社会背景を踏まえつつ、恋愛における男女の心理の機微をここまで細かに綴った文学がかつてあっただろうか。フランス文学特有の恋の駆け引きと巧みな愛の告白の騙り、レトリックの過剰なまでの豊饒さに圧倒される。その豊饒さの中に含まれる「純粋な愛」と「利己的な愛」の両義性あるいは多義性を、登場人物の人生におる様々な状況において雄弁に物語る。「愛とは何か」ということについてじっくり考えさせてくれる作品である。果たして、エレノールとアドルフの間に真の愛情はあったのだろうか。2017/09/02

zirou1984

19
僅か150頁ほどの短編なのに、なんて愛の不条理さに満ち溢れた小説なのだろう。誰からも祝福されない年の離れた二人の愛。思いはあっけなく結ばれるのに、その後も幸福に辿り着くことは決してない。これをアドルフの駄目さに原因を求めることは簡単だが、むしろそれほどまでに客観的な心理分析が成されていることが驚きなのだ。ここには恋愛感情とは自分の写し鏡を求めるものでしかない為に絶対に報われないのだという冷静な視点を持ちながらも、それでも感情の不確かさから逃れる事はできないのだという残酷な実存が剥き出しに表現されている。2013/04/01

よみこ

17
「愛して愛されないのは恐ろしい不幸である。しかしもはや愛していない女から熱烈に愛されることは実に大きな不幸である」将来の見えない不毛な関係、束縛され自由を奪われる恐怖、完全な裏切りと絶望…。恋愛の最も醜い部分を微に入り細に渡り克明に記す。こんなにめんどうで苦しいなら恋愛などしないほうがマシ、自分の好きなもの、楽しいことだけに囲まれて生き、死んでいきたい、と思わせる。それでも恋愛を求めてやまないのは人間のサガなのか、それともやはり、失ってもなお価値があると知っているからではないか。2019/06/16

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