出版社内容情報
亡き妻への想いを娘にうつし狂おしい愛情を注ぐ理髪師の悲劇「理髪師チッターライン」,主人の不埒な行為をはねつけた女中の不幸を描く「アンナ」等,シラー,クライスト以後のドイツ最大の悲劇作家ヘッベルの短篇小説8篇を収めた.社会下層の人びとの心理をえぐり出し,近代心理劇,社会劇の開拓者ヘッベルの面目を示す.解説=実吉晴夫
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Nemorální lid
4
『個人と世界全体との悲劇的な相関』(解 p.182)を主軸に置くヘッベルの短編は、世界意思との対立として個人意志を持った人物が登場する。使命を終えると忽ち破滅する"運命の残虐性"こそを悲劇においた著者の近代的リアリズムは先駆的であると名高いが、『現実克服の聡明な意欲というものを、その作中のどの人物にも授けなかった』(解 p.186)通りで、人間の悲惨さを鮮明に提示している点にヘッベルの独特性が見える。世界意志に背反して生きる個人意志ゆえに消えていく人々の移ろいは、現代の我々にも共通する"普遍的人間像"だ。2018/09/24
桜井晴也
0
「宵のことで、理髪師チッターラインは、自分の食卓についていた。卓上には明るいランプがともって、この細長い貧相な男の顔を照らしていた。男は、娘のアガーテの運んで来た夕食を、ほとんど気にとめていないのである。娘は食卓につくと、父親を物思いから呼びさまそうとして、錫のさじをかちゃかちゃいわせた。」2009/10/13