出版社内容情報
バイロン劇詩の代表作.奇怪な罪を犯し,悶々として世界を放浪する孤独厭世のマンフレッドは,アルプス山中に精霊魔女を呼び出し,忘却を求めて与えられず,自殺も許されず,ついに予言の時が来て悪魔に連れ去られる.ゲーテの「ファウスト」からの暗示といわれるが,マンフレッドこそ,バイロンその人の姿であった.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
300
一読して誰もがゲーテの『ファウスト』との相通性を思うだろう。その時代精神と濃密なロマンティシズムに。実際にも、わずかに9年の開きしかない(『ファウスト』の第1部の刊行が1808年、『マンフレッド』が1817年)。ただ、現代にあっては、この過剰なまでのロマンティシズムにはついていけないどころか、ややもすると辟易しかねないのではあるが。また、神や教会の否定という点ではニーチェにも想いをいたしたりもする。いずれにしても、この大時代な韻文は原語で読まないと伝わらないようにも思われる。我々はバイロンからは遠い。 2018/05/11
有沢翔治@文芸同人誌配布中
15
ニーチェが心酔したというマンフレッド。その影響は、『ツァラトゥストラはこう語った』にも現われている。恋人に先立たれ、死を望むマンフレッド。しかし、魔女のところでも悪魔のところでも断られるという話。最終的にペルシャの邪王、アリマニーズの館を訪れ……http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51478539.html2016/10/04
リカステ
7
解説を読んで、何となく理解した。強大な自我、それに苦しみながらも捨て去ろうとはしないのである。19世紀頭に書かれた作品であるが、随分と現代に繋がる部分も見られる。こういった内容と切っても切り離せないのは宗教(キリスト教)であるが、否定はせずとも絶対視もしない姿勢になるほどと思う。そう、「間に合わぬ」のだから。肥大した自我そして矜持が自分のものであるならば、そこから産まれる苦しみもまた自分のものである。2016/10/06
てれまこし
5
「不滅の精神」は自己以外の権威を認めない。経済的、政治的自由主義とは異なる精神的自由主義の根っこはどうもロマン主義である。スミスの道徳感情論や功利主義に対して、バイロンは社会や人類や宇宙よりも個人の人格に絶対的な価値を置く。しかし、この人格はそれ自体分裂しており、異なる意志が闘争する場でもある。この内面の闘争に外部からの介入を許さないところに統一への孤高の努力がある。「苦しむことによってより高いところへ」。宇宙もまた調和のとれた機械ではなく、異なる意志の戦場で、高貴さが下劣さを滅ぼすことにより完成に近づく2019/02/22
酒井一途
4
地上で得られるすべての知識を得、人間を超えた存在として精霊と交信しながらも、幸福はおろか恋人の死により唯一の愛すらも失ってしまうマンフレッド。彼は徹底的に人間嫌いであり世の虚無を一身に受け続けた。そして己の死をも悪魔に引き渡さず孤独なまま滅びゆく。2013/01/06