出版社内容情報
エーゲ海に浮かぶ美しい島レスボスの自然に囲まれて育った山羊飼いの少年ダフニスと羊飼いの少女クロエー.春の田園に芽ばえた幼い恋はやがて,二人をはぐくむ自然が季節とともに移りゆくにつれ,しだいに成熟した愛へと深まってゆく.みずみずしい抒情あふれる古代ギリシアの牧歌物語にボナールの挿絵をそえておおくりする.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
182
ギリシャ語で書かれた本書の成立は詳らかではないが、およそ2世紀後半から3世紀初め頃とされている。日本は『魏志』倭人伝では、まさに卑弥呼の時代。同書に卑弥呼は「事鬼道、能惑衆」と叙述されているが、同時代の『ダフニスとクロエ』でも、ニンフやエロス、あるいは牧神のパンなどが登場するので、いずれも人間世界と神々とが共存する時代であった。それにしても卑弥呼の世界の暗さに比して、ギリシャのあくまでも晴朗な明るさ。この違いは何に由来するのであろうか。ここは、まさに三島由紀夫があこがれたアポロン的な輝きが横溢する世界だ。2015/01/10
新地学@児童書病発動中
116
瑞々しく美しい古代ギリシャの小説。素朴なタッチのボナールの挿絵も素晴らしい。山羊飼いダフニスと羊飼いクロエーの恋を描いている。リアリズムの小説ではなく、神話的な世界が溶け合っているところに一番惹きつけられた。ニンフやギリシャ神話に出てくる神々も、人間のように物語の中を闊歩するのだ。この世界から孤立して切り離された現代人と異なって、古代の人々はこの世界の美しい部分と自然に結びついていたのだろう。作者のことはよく分からないそうだ。古代の物語がこのように読み継がれていることは、歴史の奇跡かもしれない。2017/01/03
(haro-n)
80
ギリシア文学を数冊読んでいたので世界観にスッと馴染めた。2、3世紀の大衆娯楽作品とのことで分かりやすい展開。ダフニスとクロエーの幼少期から、成長し恋を知り様々な困難を経て結ばれる思春期までを描く。キリスト教の思想が根付いた読者から性描写に対する批判があったようだが、露骨というようなことは一切ない。思春期特有の閉塞感もなく、牧歌的。蜂蜜や葡萄、山羊や羊などの動植物や、海岸や洞窟、林などの情景描写の多さから多彩な自然を感じた。日々の生活が神々への供物や祈りに常に結び付いていて、自然の恵みの豊かさを想像できた。2018/07/08
へくとぱすかる
56
5編のみ伝えられた「ギリシア小説」のひとつ。2世紀の作品で、エーゲ海の島を舞台に、若いふたりの恋が語られる。牧人ののどかな日々に、波乱万丈のできごとが襲いかかり、恋人たちを弄んでいく。物語は、小説というより戯曲を読んでいるような流れに思える。神話の形式も影響しているのかもしれない。どこかで読んだエピソードに思える部分は、おそらくこの物語が原型になって、後世に影響を及ぼしたのだろう。ふたりのその後に触れた個所を読むと、長い歴史の中に忘れられた人々にも、物語はたしかにあったのだと、そう言っているように思える。2022/10/23
なる
43
バレエの楽曲として知られていることの方が多い物語、全く知らなくてなんとなく手に取ってみた。今から2000年くらい前に書かれた作品で実は作者もあんまり知られていないらしい。山羊飼いに拾われた少年ダフニスと、羊飼いに拾われた少女クロエの恋愛を中心に描かれる4章から構成される短い物語。ニンフやらエロースやらの精霊神々に祝福されている2人は、何か災難が降り掛かってもしれっと神々の助力で解決されているというチート級。それでいて接吻やら情交やら惜しげもなく描写していて読者は何を見せつけられているのだろう。うける。2022/05/01