出版社内容情報
天界から火を盗み出して人類に与えたプロメーテウス.主神ゼウスの怒りをかい,彼はいま酷烈な刑に服すべく岩山に縛りつけられようとしている.ギリシア三大悲劇詩人の一人アイスキュロス(前五二五/五二四―四五六)はこの神話の主人公を,勇気に満ち堂々と神に対抗する力強い姿に描き出した.強い詩的感動を呼ぶ一篇.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
127
劇の初演は紀元前5世紀初頭。ギリシャ悲劇は本篇を含めても、まだ4作目なので確たることは言えないのだが、どうも他のギリシャ古典劇とはその趣きを異にするようだ。まず、登場するのは主人公のプロメテウスをはじめとした神々であり、そこで刻まれる時間は100年、200年の単位ではなく永遠であり神々は不死である。したがって、そこには人間のような葛藤がなく畢竟、劇はきわめて動きの少ないものになる。ギリシャの円形劇場を想像してみるに、この劇はいわばそこで朗唱されるようなタイプの叙事詩的な性格を持っていたのではないだろうか。2014/02/18
アキ
84
石油が高騰し、原子力を作り、エネルギーを巡り戦争まで起こしてきた人類のそもそもの始まりは、ギリシア神話ではプロメーテウスが天上の火を与えたから。縛られたプロメテウスは、大鷲に肝臓を啄まれる姿て、17世紀ルーベンスや、20世紀モローなど多くの画家が題材にした。紀元前6世紀にアイスキュロスにより書かれたギリシア悲劇の戯曲ですが、権力と暴力が登場したり、火と鍛治の神ヘーパイストス、へーラーの嫉妬で牝牛になったゼウスの愛人イーオー、伝来役ヘルメースなど登場人物も多彩です。ヘラクレスはここでは登場しませんでした。2021/10/28
壱萬弐仟縁
33
学部時代の教養科目で倫理学を受けたときに、なぜかこの書名だったのでは? と思い出されたので借り出してきた。コロス(舞唱団:オーケアノスという大洋の主の娘たち)曰く、富に心のおごった者や、氏や素姓を誇る者らと結ばれようなど、貧しい者はけして焦れるものではない(70頁)。他、訳註で、暴力(ビアー)としたのは、よい意味では協力で精神的なものより具体的、物理的な力だが、ここでは恐ろしげな仮面をつけた怪物として登場(85頁)。2016/02/13
松本直哉
32
人間が不死でないのはおそらく幸運なのだろうと思う。どのような苦しみもいつかは終るのだから。不死ゆえに永遠に苦しむことを強いられる主人公プロメテウスの強靭と不撓不屈は人間の想像を超える。人間と神の仲立ちをする点はイエスに、容赦ない罰を受ける(そして友人の訪問を受ける)のはヨブに似ているが、違うのは、ゼウスを前にして一歩も引かず、自らの罰の不正義を訴え、最高権力者に呪詛を浴びせるところ。ゼウスの一人勝ちになる前の時代の、権威を懐疑し抗議することが許された健康な時代の、英雄の物語として読むことができる。2024/03/21
ナハチガル
24
フランス語の勉強のために、ともかく一冊読んだ、という満足感を今後のモチベーションとするべく、参考として積読本の中から選んだ一番薄い本がこれ。古典は訳が達者すぎて逐語チェックしにくいのが難だが、外国語の勉強をしながら日本語の名文も味わえるのはお得だ。ついでにイーオーの足跡をグーグルマップでたどって地理の勉強にもなった。繋がれたまま肝臓をほじくられっぱなしとか、牛にされて耳の中にずっと虻がいるとか、神様も大変だ。ヘルメースってさわやか男子のイメージだったけど、チンピラみたいですね。川谷拓三を思い出した。A 。2024/02/06