出版社内容情報
王政復古を願っていた半蔵にとって待望久しい新時代の幕はあがった.しかし,新政府の方針は,半蔵の理想とことごとく食い違い,「御一新」は,下層のものの苦しみを取り残して進んでゆく-.(全4冊完結)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
45
「王政復古は来ているのに、今更、勤王や佐幕でもないじゃないか」「猫も杓子も万国公法を振り廻すにはたまげました」と京の人々の間で交わされる声が響く。郷里の本陣に帰ると、水呑百姓から本百姓との経済格差の怨嗟の声が届く。王政復古を信じていた半蔵の立場は、宿場の改革によって自ら馬籠本陣を閉めるという、彼自身が変化を求められることで、一君万民の革命に彼自身が切り崩されていく。観念的な思想の追求の間に足元は疎かになる。保守回帰の明治維新は、意外にもマルクス主義でいわれる理想と現実の風景とそう変わらない印象を受ける。2023/04/24
翔亀
45
第二部は維新編。まず、王政復古から戊辰戦争の終結までの一年間(1868)、世の中がひっくり返った一年間に紙幅が費やされるが、これが上手。列強の在日外交官の視点と、木曾・馬籠宿の視点から、つまり外と地の視点から描かれる。上からの視点や客観的な視点では表せえない時代の空気が良く伝わってくる。圧倒的な希望を持ちながら、それが裏切られたとか挫折した、というわけでもないが、何ともいえない「時代の空気の薄暗さ」(p284)なのだ。例えば相良総三、新政府軍の先鋒として理想を掲げて進軍したが(馬籠宿を通る)、新政府から↓2016/10/20
きいち
26
ご一新である。ここまで、たとえ事件の起こらぬときも半蔵の時の歩みをしっかりと描いてくれていたおかげで、この巻ラストの十数ページの進みの速さ(本当にすっ飛ばしているのだけれど)に眩暈がする。半蔵のものでもあったはずのこの眩暈を自らも体験できる喜び。藤村、うまい。◇この巻は頭から100ページ近く主人公が出てこないし、部分部分『陽だまりの樹』だったり『神聖喜劇』だったり、もう好き放題って感じ。そのなかでふと、木々が連なる木曽路の風景を水蒸気ごと描かれる。思わず読む手を止める。すぐ続きにいってはいけないような…。2015/03/03
寝落ち6段
15
明治の世が幕を開けた。それに至る世情をとてもよく描き出している。遂には会津が負け、新政府に歯向かう勢力はいなくなる。時代は欧米列強の帝国主義。日本も欧米列強に追いつくことを是とし、国際社会の一員となるために、欧米化が急激に進む。暦は太陽暦となり、丁髷は散切り頭になり、庄屋は廃止され、次々に庶民の生活も変わる。それは「破壊」か「変革」か、立場によって見方が違う。古代を夢見た国学の徒の目にはどう映ったのだろう。社会的価値観が一変した世の中で、人の価値観、人の心の支えは変わるものなのだろうか。2021/01/28
Masakazu Fujino
13
いよいよ幕府が倒れ、新しい時代が始まるが、その中での混乱ぶりが活写されている。天皇が外国人公使たちと京都で対面する状況であったり、木曽路の宿場に住む人々の生活が新しい時代の中で翻弄されていく様子がとても詳細に描かれている。とても良かった。 下に続く…2021/11/26